サンサ様の大胆な行動・・・『わあっ』

「わあ」

 セイの国、城門から内門までに管領かんれいというお偉い方らとその部下、武官や文官がピシリと並んで迎えている。あけの国王を友好的に出迎えているのだろうか。


 ヒュウイ様は私の手を握りしめたままその道を進む。赤の衣に身を包み高く結い上げべっ甲のかんざしを何本も挿し真っ赤な紅を差した私にカヤさんは、開いた口を押さえ驚いている。

 違うんです、私は朱く染まったわけではない。こんな恰好をしてでも、こちらに来たかった。


 カヤさんに気を取られていると足を止めたヒュウイ様の肩にぶつかった。


 タイガ様の後ろから歩いてきた青い衣に黒の長い羽織をはためかせるサンサ様……長い黒髪はいつも通り一つに結ばれている。そしていつも通り安定の冷ややかな眼差し。

 なんだろう……胸が締め付けられる。罪悪感?いえ……そもそも私はどこの妃でも無い訳で。西から追放された用無し妃……あ マリは……?


「久しぶりだな ヒュウイ」

「お招きいただき光栄。サンサ、国の未来を語る前にひとつ報告があってさ」


 ヒュウイ様は私の腰をぐいと寄せた。


「セリは私の王妃にする。」

「……何故だ?あなたには嫌というほど側室がいるではないか。王妃は何人だ?」

「王妃の席は空いている。それに側室は私の為ではない。」

「ならば、他を当たってくれ。セリは我が妃」

「サンサの妃はこの子の姉でしょ?譲らないよ……私はセリに惚れたんだ」

「…………」


 サンサ様は黙り込んだ。まさか、ヒュウイ様の申し出を受ける気だろうか……ならばどうぞって……。私には拒む権利も何かを願う権限など無い。ただ二人の話をじっと聞くしか出来ない。


 その時だった。サンサ様が、私の手をぐいっと力いっぱい引っ張った。


 そして私の真っ赤な紅をご自分の袖口でぐいっと拭う。


「…………っ?!」


 サンサ様は俯いた私に顔を寄せ唇を押し上げるように口づけを……した。


 時が止まったように静まり返る。



「なんの真似を……サンサ」

 ヒュウイ様は怒ったように視線をそらす。


「無事だったか?セリ……どれだけ心配したか……会いたかった」

 え?!お お芝居がうますぎます。サンサ様の胸の中で私はただ何度も頷く事しかできないでいた。


 そんな私の髪から「邪魔な飾りだ」と簪を一本一本抜きながら地にポイと捨てていく。


「サンサ!答えよ」


「見ての通りだ、私はセリがここにいた間、毎夜愛していた。何度も身体を重ねた。正式にセリこそが我が妃。あなたに渡す気は一切ない」


 何度も?!身体?!聞いてるほうが恥ずかしいセリフをサンサ様は表情一つ変えずに囁く。周りの皆も言葉こそ発さないけれど、あからさまに口をあんぐり開けていた。



「国家統一……出来なくてもかまわないって意味かな?サンサ」


「脅しか、国は関係ない」


「ふっそうはいかないよ。セリを手に入れる為なら戦も辞さない」


「はあ……また戦か」


「セリ、戦になれば君だけは守る。心配しないで」

 ヒュウイ様はそう言い切って踵を返した。内門をくぐること無くとんぼ返りする気のよう。


「旅疲れを癒やしてはいかがです?殿下」

 タイガ様が声を掛けるが右手を上げて首を傾げながらそのまま馬車へ乗り込んだ。


 戦……そんな事になっては困る。けれど今は、この場に置いていかれた事にほっとしていた。


 ◇


 サンサ様は国の皆に先ほどの発言を撤回するのをお忘れのままさっさと城へと戻ってしまった。


「セリ様!!ああ 良かった。戻られなければこのカヤが命を懸けて連れ戻すつもりでした!」

「カヤさん」

 私達は再会の抱擁をする。


「どうしてセリ様はいつも巻き込まれるのか。私のせいで優しすぎる性格にしてしまったのでしょうか」


「カヤさんのせい?とんでもない。私の気が弱いのがいけないのです……」


「人の気持ちを考え、人が望むことを汲み取れるようなおひとになって下さいと言い続けてまいりました。しかし、セリ様は私の言葉のせいで欲を捨てられた……そうではありませんか?」


「どうしました??カヤさん……」


 カヤさんは私をじっと見つめて不安げにそんな話をする。カヤさんこそ、世界で一番優しい人だと思うのに。


「サンサ様は西の使いにも、セリ様をよこせというなら剣を抜くと言い跳ね除けました。」


「西?!」


「マリ様はずっと、セリ様に成り代わり偽の妃をしていたのです。本当の神託により決められた王妃はセリ様なのです。」


「私が……サンサ様の……?」


「はい」


「マリは……私の姉はどうなりますか?まさか」


「はあ……また人の心配を、マリ様は城下の屋敷へ戻られました。サンサ様は何も罰を与えなかった。きっと、セリ様の家族だから、配慮されたのでは無いでしょうか」


「家族……」


 私の記憶にすら無い家族をサンサ様は気にかけていたなんて、やはりあの方は……。


「んで、セリ様。先ほど殿下が仰ったのはほんとですか?!」

「は?」

「あ、そ その毎夜……あーっと」

 とカヤさんが顔を赤らめた。

「ちっがそんな風なことは……ないですっ」

「いいんですよっセリ様。セリ様は真の王妃ですからっ」

「ああ あははは」

「あ!!へウイ様は?まさか!セリ様に!」

「ないですっ!全くもって何もありません」

「ああ良かった」

「ヒュウイ様です。名前、へウイではなくヒュウイ」

「は?へウイ様」

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