夕の議でサンサ様は黙れと言う・・・『はい 黙ります』
夕の議だかが始まった。私は初めてサンサ殿下の妃、セリとしてその場に居る。先ほどから国家統一やら難しい話に私はにこやかに振る舞うわけにも行かずただ無の表情に徹する。
私は悪いことをしているのだろうか……人を騙しているのは事実。ああ申し訳無いでございます。おじさまがた……。
「ところで、セリ様、お戻りになられた経緯をお尋ねしても?」
誰だか知らない長い髭をたくわえた方が私に話題を向けてしまった。
「わ 私は記憶がなく、彷徨い……城の前で仕事と宿を探しに……来ていたところ……」
「黙れ」
「え」
隣で無表情のサンサ様が小さく黙れとおっしゃった。音も立てずにさっと立ち上がったサンサ様はゆっくりと皆の前を衣をなびかせ歩き立ち止まる。
「セリに関して
「しかし、殿下。何か裏があれば殿下に危険が……災いが降りかかります」
「私がそれらに屈すると申すのか?」
「いえ……とんでもございません。しかし神託による余命宣告はどうされましょう。サンサ殿下とて、そればかりは……」
「私がもし命尽きたならば遺産は今そこにおるセリに渡す。この首飾りをもつこのセリにな」
とサンサ様は私の首に瑠璃玉のような首飾りを結んだ。
「は……?」
おじさまたちは唖然としている。私も同じく開いた口が塞がらない。てっきりお前は偽物かと皆の前で問いただされるとばかり思っていたのに……。サンサ様は偽物と知っている?または、神託の為に側に置いているだけ?いえいえ偽物を置いたところで意味がない。でもなぜ遺産まで……。逃げないように……?神託って何??
◇
皆が退室するのを見届けた後、サンサ様と渡橋をわたり本殿へ戻る。
「その石は、代々この国に伝わる神秘の石。まあガラスや瑠璃を合わせたものだが……美しい心を持つものが身につければ、月夜にも輝く宝石のような石。反対のものが身につければ、光らずに黒く濁りただの石になるらしい。私が持っていた間は輝いていた……」
「そ そのような大事なものを……なりません。私には、そんな……」
サンサ様はこちらにぐっと近づく。ああ驚いた……。儚げな笑みを薄っすらと月明かりに浮かばせ、私の胸元に手を当てる。
「お前には、ふさわしいとこの石が言っておるようだ。」
「あ」
見れば石はたしかに青い光を放ち輝いている。
「まあ、所詮はただの石故、気にするな」
「……はい。あの、ありがとうございました」
「何がだ?」
「議会で、困っていた所助けていただき……」
「お前を助けたわけではない」
「あ……はい」
ここに来てひと月あまり、大した話もしないまま。聞きたいことは山ほどあるのにサンサ様にどう話せばよいのか。
◇
寝る前に、私はサンサ様にお茶を淹れる。最近では随分と好みや暮らしの段取りが分かってきた。
「今宵はジャスミンにいたしました」
「ああ いただこう」
少し茶を啜り顔をしかめるサンサ様
「あ、熱かったですか?申し訳ご……」
「いや、すぐに謝るでない……こちらは感謝している」
感謝?!私が感謝されるなどあり得ない自体に困惑するばかり。そんな私をちらりと見てサンサ様は咳払いをした。
「いや あ、茶を入れる女官を呼ばずに済むからだけのこと……」
「あの、私は……」
「ああ 議会ばかりで肩が痛む。明日は体を動かしたいものだ」
「肩……押しても良いですか?」
椀を口につけたままこちらを上目遣いで見たまま固まる。やはり肩を揉むなど言わなければよかったのか。
馴れ馴れしいと軽蔑されたのかもしれない。その美しいお顔がより不安をあおる。鼻が広がってるとか目がすごく垂れてるとか何かあればいいのに。愛嬌が一切無いほどに整ったそのお顔……。
サンサ様は何も言わずベッドに腰掛ける。隅で動かずに座っている。揉めと言っておられるのかしら。
恐る恐る背後から肩を押す。たしかに硬い。特に左側が張っている。
「左肩が硬いです」
「ああ お前が左腕にばかり乗るからな」
「え……」
「知らぬのか?」
「…………」
「毎晩、私の肩に頭を乗せ腕を踏みつけておる」
「……あああ どうしましょう。何か仕切りになる物で遮るようにしなければ……」
「かまわぬ……寝言と泣かれるよりはましだ」
「え」
「人の腕が無ければお前は泣きうなされる。知らぬのか?」
「は はい。全く記憶にございません」
「お前と言うやつは、……何にも記憶にないのか」
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