奇妙な川辺の女(サンサ視点)

「私を呼び出してくださるとは嬉しいわ。サンサ」

「ユア……わざとか?」

「いやだっ。セリが余りに勢いよく馬を走らせたから。私はただ森を散歩しようとしただけ。私も夜まで探したのよ!」

「そうか、競争したのではないのか?」

「…………」

「あの先が崖だと知らずに落ちるのを分かって走らせたな?ユア」

「サンサ、あなたには私が必要よ……私といればあなたは笑う。そうでしょ?神託とか気に留めずに好きに振る舞って……私ならいつでも好きにして良いのに……」


 ユアは私に抱きつく。これまではユアとセリは対等にやり合ってきた。しかし、今のセリであればやられっぱなしになりそうではある。または、ユアにやられたと主張する為に自ら崖に落ちたか。


「離れろ」

「サンサ……」

「二度とセリに近づくな。これまでとは違う」

「記憶が無いから?記憶を失えば受け入れるの?」

「お前の為だ。それに崖から人を落とす者に話はない」

「待って……じゃ私も崖から落ちるから!サンサ!サンサ!待ってよ」


 呼び止めるユアから立ち去ろうと振り向けば、セリが佇んでいた。いつから居たのかもじもじと足をどちらへ向けようか悩んでいるようだ。葉っぱの如く鮮やかな緑の衣の端を握り締めたまま、何がしたいのだ……。


「何か用か?」

「あ、いえ、お お邪魔を 申し訳無いです。」


 すれ違いざまにセリはまた口を開く。


「お食事、一緒に……ど、良いですか」

「好きにしろ」


 部屋へ戻ると食事の準備などされていない。

 ついて入ってきたセリを見ると、風呂敷を背負っていた。


「何をしておる?」

「川へ、川へ行きましょう。」

「どこの川だ?」

「ああ……分かりません。川はありますか?近くに」

「あるが……傷は、まだ痛むのではないか?」

「大丈夫ですっ」


 にっと笑うセリが奇妙だが私は馬を出した。セリを先に乗せ、その後ろに乗る。


「あ、い 一緒にですか?!」

「なに、また馬を一頭逃されては困るから」

「あーっあの馬……」

「そうだ、逃げた」

「申し訳ございません」


 背中も謝るように小さく丸めたセリを乗せ近場の川辺へ向かう。しかしこんなに痩せて何があったのだ。


「髪を結べぬか?」

「あい?」

「髪だ、風で舞って前が見えぬ」

「あーっはい」


 川辺に馬をくくり、セリを降ろす。緑の衣をくしゃっと掴みながら地に下ろすとさっさと川へ足を運ぶ。楽しげに……私は子を連れてきたのか?


「わあ いいですね。川……綺麗な水……これ飲めますか?」

「川遊びしているほど暇ではない」

「あっそれはそうです。では、すぐにおむすび食べられる場所を……」

 セリは川の岩を渡り歩く。私もそれについて進むが


「きゃーっ」


 案の定ふらついたセリは足を岩場から踏み外す。とっさに手を掴む私に抱かれ岩に座り込んだ。


「あ ありがとうございます……ご迷惑を……おかけしました」

「あ」


 見れば川底に包んだ何かがひとつ沈んでいる。


「あー!!おむすび!」


 途端に大きな声で叫ぶセリ。うるさいので私はそれを剣で突き刺し拾い上げる。


「あははは サンサ様……串刺しおむすびですね」

 セリは、無事であった方を差し出す。


「食べてください。サンサ様の為に作りました。メイに聞きながら作りましたのでおかしなものは入っておりません。ご安心を」


「かまわん。お前が食べると良い」

「なりませんっ!川でおむすびを食べるのが目的です。私では無くサンサ様がです!」

「…………」

 黙った私を見て、セリは剣に刺さったおむすびを引っこ抜き食べた……。


「おいひーですよっ。」

「…………」

 川、米、緑……か。

 少々単純すぎるが、私にすれば初めてだった。川でおむすびを食べるのも、緑の衣に身を包んだ女が作ったおむすびも……。

 よって一点をやろう。


「セリ、何故このような事をする?」

「何故……それはサンサ様に生きてもらわなければなりませんので」

「……このおむすびを食べれば寿命が伸びるか?」

「う……ははは きっと」

「死にはせんか?」

「あ、……ひどい」

「何か言ったか?」

「いえっ言っておりません」

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