16話 主人公だけ使える体術の話

「何が芸術的戦闘だ。 その指輪は見るからに下級の魔法具じゃねぇか? 」


僕が身につけたこの指輪は幻隣(げんりん)といって、自身の幻影を相手に見せることの出来る魔法具だ。


「これをしってるのか? 」


「何かは分からないが、その見た目から恐るるに足らねぇもんだってのは分かるぜ」


慢心。 ガゼルからは明らかな油断が読み取れた。


「おい、知ってるか俺の得意とする魔法は―」


「身体強化系の魔法だろ」


僕はガゼルの話を遮る。


そんなのわざわざ言われなくてもわかる。


逆3角の上半身。


目つきの鋭さ、左肩が少し上がっている、行動原理は勝ち負け、勝ち負けでも負けないようにするのではなく勝ちにいくタイプ。


頑固で短期で反抗的、魔力重心は顎。


魔力の特徴は常に沢山の量がすごい勢いで流れているため、無駄に消費をしやすい。


ただ1度乗ると誰も止められないくらいの猛攻を繰り出す。


「1つ聞きたいんだが、魔力もスキルもないお前がどうやって俺と戦う気だ? 」


「もちろん、体術だな」


その瞬間ガゼルは品のない口を大きく開けてガハガハと笑い出す。


それとは対象的にナナリの顔色は青ざめていた。


「アレン、コイツの得意魔法をしってんだろ? コイツは体術においては2組や3組にもひけは取らないぞ! 」


ガゼルはナナリを横目に見ながら同意する。


「その通りだ。 俺の前で3分ともったやつはいねぇよ」


「確かにそうかもな」


俺はガゼルに同意する。


ガゼルとナナリは虚をつかれた顔をするが、ガゼルはフンッと鼻息を鳴らし、片側の口角を上げる。


「えらく物分りがいいじゃねぇか。 まぁわかったところでお前を粛清することは変わらないがな」


そう言いながら、手をボキボキと鳴らしながらゆっくりと近づいてくる。


「おい、勘違いすんなよ。 3分で決着がつくってことに同意したんだよ。 確かにお前は俺を倒すのに3分かかるだろうな。 けど俺は1分も掛からず倒せるから俺の勝ちだな」


ガゼルは白目を剥きそうなほど頭にきたようだ。


「後悔するなよ… 転校生」


ガゼルは両手で拳を作り、腕を顔の前で交差させる。


身体強化魔法!! 」


恐らくこれがガゼルの聖勢なのだろう。


体を巡る魔力がさらに加速する。


「死ねええぇぇえええええ!! 」


ガゼルはとんでもないスピードで距離を詰め、気づけば僕の目の前に拳が迫っていた。


「アレン!!!!! 」


ナナリは心配そうな声をあげるが、心配には及ばない。


なぜならガゼルが殴ったのは僕が幻隣で作り上げた幻影だからだ。


もう1人の草陰に隠れて僕はガゼルの背後を取る。


「もらった!! 」


僕がその大きな背中に蹴りをお見舞いしようとしたが、ガゼルはクルッと振り返る。


「ガハハハハ!! バカめ! お前が持ってるその指輪が幻隣だってこと知ってんだよ! そしてその等級なら幻影は出せて一体だ! 」


ガゼルはこの指輪のことを知っていた。


だから僕の幻影にも惑わされなかったようだ。


「これが5組。上級者の戦い方だ!!! 」


ガゼルは勝ち誇ったような感じだが、心配には及ばない。


ガゼルは全身全霊を込めた拳を背後に居た僕にぶつけるが、それもさっきと同じように幻影であった。


「はぁ!?」


ガゼルは素っ頓狂な声を出す。


その瞬間本体の僕が草陰から飛び出す。


完全に隙を突かれたガゼルの顎に僕の膝蹴りが見事に命中する。


「あがっ、クソがァ!!!!」


ガゼルはすかさず反撃をする。


しかしその攻撃は僕によって全てかわされ、逆に僕の攻撃は全てガゼルにクリーンヒットする。


「な、なんだ、なにが…… !」


ナナリはその違和感に気づいたようだ。


「まさか、ガゼルの全ての動きの先が読めるってのか… 」


そう、これが僕の編み出した体術の真骨頂クチナシ


相手の魔力重心に強烈な一撃を入れることで、相手の魔力の流れる速度がかなり遅くなる。


そして相手が動かそうと思った箇所の魔力から早く流れ始める。


つまり相手が次体のどこを動かすのか分かるのだ。


まぁそれもホントに一瞬の差なので、普通の人には同時に思えるが、僕にはその差がハッキリと感じ取れる。


相手に息を吸わせる隙も与えない。


「あが…… 」


次にガゼルが口を開いた時はもう、意識を失いかけていた。


「ガゼル。お前は自分がブラフを張って上級者だと思っていたらしいが、それは甘いぞ」


僕はそう言って指輪を外し、ガゼルも見える位置に持っていく。


そして指輪の裏側を見せる。


そこには下級ではなく中級の証が彫られていた。


「こ…… れは、下級の幻隣じゃ…… ないのか? 」


ガゼルは何とか言葉紡ぎ問いかけてくる。


「そうだ。 これは俺が頼んで下級に見えるように加工してもらった中級の幻隣だよ。 みんな勿体ないってそんな事しないが、そうした方が敵を騙せるだろ? 」


俺はそう言いながら懐に指輪を戻す。


「いいか、敵に正しい情報を与えない(ブラフをはる)のは戦い方の基本だよ。 自分のブラフに酔う前に相手のブラフを警戒しろ」





僕がガゼルを倒した数分後に騒ぎを聞きつけた先生数人が駆けつけ、事件は終わりを迎えた。


レイナさんもナナリも怪我は順調に回復しているようだ。


そんな中僕は校長室に呼び出された。


校長室には僕以外に担任のアドル先生、ガゼル、そしてガゼルの親らしき人が集まっていた。


重苦しい空気の中校長は僕に告げる。


「アレン君、君を我が校の優秀な生徒に一方的な暴力を振るったとして退学処分とする」






<あとがき>

できるだけ高頻度にしたいですが、3日に1回がベースです!

水曜日、金曜日、月曜日です!(土日もするかも)

投稿時間は20時です!


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