13話 主人公ブチ切れの話
「ナナリ何であなたが、ここに? 」
僕もレイナさんも同じようなことを尋ねる。
ナナリは少しだけため息を吐くと首を横に振りながら
「そりゃ、7組に入ることになったからに決まってんだろ」
直ぐに僕とレイナさんは状況を理解する。
ヴォルフガングからの罰則は退学ではなく、クラスの2段階の引き下げで済んだということだ。
退学にならなくて良かったが、プライドの高いナナリからしたらこれでも十分な罰だろう。
「そっか…… 」
僕もレイナさんもなんと言っていいかわからず、口ごもってしまう。
しかし、ナナリはニカッと笑うと
「だがアタイにとっちゃこれは好都合だ」
と言うのだった。
「どうして? 」
僕の質問に間髪入れずナナリは答える。
「前からあの偉そうな1組の野郎どもにはムカついてからな、7組に居ればアイツらと堂々と喧嘩できるからな! そこでアイツらの長っぱなをへし折ってやる」
ナナリは両手の拳を胸の前でゴンッとぶつける。
「そっか、てことは対抗戦に出てくれるってことでいいんだね? 」
ナナリは当然というように首を縦に振る。
よかった。
ナナリが入ってくれたら心強い!
「レイナ! あの、その…… 」
ナナリはさっきまでの勢いはどこにいったのか、突然しおらしくなった。
「? 」
レイナさんもどうしたのだと言わんばかりの顔でナナリを見つめる。
「その…… あーもう! 」
ナナリはパチンと自分の頬を叩くと、頭を深々と下げる。
「アタイ酷いこと言った。 ごめん! レイナの強さ見くびってた。 もうバカにしたりしない! 」
レイナさんは最初少し驚いていたが、すぐに笑顔になりナナリの肩に手を置く。
「ナナリ、大丈夫よ。あなたが私に言ったことも本当のことで、いつか私が向き合わなければならない私の問題。 寧ろそれに気づかせてくれてありがとう」
ナナリは顔をあげて微かに微笑むと腕で涙を拭う。
レイナさんはハンカチをナナリに渡し、一瞬だけ僕の方へ視線を向ける。
「それに私があんな芸当ができたのはここにいるアレンさんのおかげなの」
ナナリはそうなのかと言いながら僕の方を見る。
何故か顔が赤らんでいるようにも見えたが、どうしたんだろうか?
「あ、あのさレイナもだけど、あんたもアタイの退学をやめるように進言してくれたんだろ? 」
あ、そういうことか。
「いや、あれはあの場で誰もが思ってたことを言っただけで、どう考えても生徒会のあの罰則は厳しすぎるから」
「でもあんたが言ってくれなかったらもしかしたらアタイは今頃退学になってたかもしれない。 だからその、ありがとう」
普段あんまり笑うことがないんだろう、そのぎこちない笑みに少し面白くなってしまう。
けれど、その笑顔に嘘はない事が僕にはわかる。
「いいさ、それよりもこれからよろしく! 」
草陰からナナリの魔法が飛んでくる。
だがそれは僕には命中しなかった。
そして僕は直ぐにボールを投げつけ、それは魔法発動後の僅かな隙をつく。
しかし、横から飛んできたレイナさんの魔法によってボールは掻き消される。
「いい連携だ」
依然として僕に攻撃を当てることは出来てはいないが、僕の攻撃が当たる回数も減った。
「よし、一旦休憩にしましょう」
僕の攻撃が当たらず、向こうの攻撃も当たらないため、自然と1回の戦闘時間が長くなる。
「くそ、アタイは良い位置を取れてると思うんだが」
「うん、よく敵の情報が頭に入ってると思うよ。後は魔法を撃ったあとすぐに隠れるっていうことを意識したらいいかも。当たるまでその場所で何度も魔法を使う癖があるから」
ナナリは少し口を尖らせながら軽く頷く。
不貞腐れいるようにも見えるがこれが彼女なりの相槌なのだろう。
こんな態度のわりに、しっかり僕に言われたことは実践するからちょっと可愛い。
「私へ何かありませんか? 」
レイナさんはいつものようにノートとペンを持ちそう尋ねる。
「そうですね、レイナさんは味方との距離間がいい感じです。 すぐにナナリのカバーが出来る位置にいることが多いですね。ただ敵に向けて攻撃をするとき迷いを感じているように思うので、敵がいるなと思ったら、間違っててもいいから攻撃するという気持ちは大切かも知れません」
ふんふんと言いながらレイナさんはせっせとメモを取っている。
「僕はちょっとトイレに行ってきます」
そう言ってその場を離れる。
トイレに行きたいのも本音だが、彼女たち2人で話し合う時間も大切だろう。
「あ、あのアレンさん! 」
レイナさんに呼び止められた。
「ホントにありがとうございます。 アレンさんがいなかったら私ホントに何も出来なくてずっと言われるがままの人生でした! けど、アレンさんのおかげで私も強くなれるんだって思えて……」
レイナさんは少し照れたように頭を掻きながらニコっと笑う。
赤面した顔を必死に隠しながら僕は全然問題ないみたいなことを言いながらその場を去った。
なんだあの笑顔……とんでもない魔法だな。
僕はきっと今ニヤけて凄く気持ち悪いかおをしているんだろうな。
数分後
僕が戻ってくるとそこには知らない生徒10数人と傷だらけになったレイナさんとナナリの姿があった。
「何が……」
驚きのあまり言葉が出てこずその場に立ち尽くす。
するとその生徒の1人が僕の存在に気づく。
「こいつか、こんなとこで訓練なんてことやってんのは」
僕よりもふた周りほど大きな体格をした男が野太く低い声で、そう言った。
「レイナさんとナナリに何をしたんだ? 」
僕は荒らげそうになる声を必死に抑えながら尋ねる。
「あ? こいつらのこと言ってんのか? 」
白々しい態度を取りながらその男はレイナさんとナナリの襟を掴みを持ち上げる。
「コイツらが5組に恥をかかしたって聞いたんでな、生徒会に代わって俺が粛清しにきてやったんだ」
男はまるでゴミでも扱うかのように彼女たちを放り投げる。
奥歯が痛む。
無意識のうちに相当噛み締めていたようだ。
「お前は…誰だ?」
僕は静かに尋ねる。
「あ、俺か? 俺はガゼル。4組のエリートさ。ポイ先生の頼みで5組の連中を連れてお前らに粛清しに来た」
なるほど。
「に、逃げろ! この人数じゃ―グハッ! 」
ガゼルは思い切りナナリの腹を蹴る。
「黙っとけこの恥さらしが、7組なんぞに負けておいてこの学園にいるってことは、ゴミクズ同然だろうが! しかもらこんな女に負けたなんて信じらんね〜よ」
レイナさんの髪を引っ張りその頬をビンタする。
レイナさんは意識を失ってしまったのかダラッと脱力してしまっている。
「ケッ、根性のねぇーやつだ」
後ろにいる5組の取り巻きたちもクスクスと笑い、この状況を楽しんでいるかのようだ。
「ナナリは元クラスメイトだろう? 」
そんな質問に奴らは半笑いで答える。
「いやいや、こんなゴミしらなねーよ! ねぇ、ガゼルさん」
………
………そうか。
「その粛清の対象には僕も入っているんでしょう? 」
「あぁ? たりめーだろ」
ガゼルはボキボキと手の骨を鳴らしながらそう答える。
こいつらには、遠慮はいらないよな。
殺しさえしなければもう……… 何でもいいか。
僕はゆっくりと魔力感知を妨げるブレスレットを外す。
僕は魔力がないので、ナナリもレイナさんも僕の魔力を感知できない。
それだと僕だけが一方的に魔力感知で位置が分かってしまうので、対等にするためにこのブレスレットを着けていたのだ。
「ナナリ、レイナさん。 すぐに終わらせるので待っといて」
<あとがき>
できるだけ高頻度にしたいですが、3日に1回がベースです!
水曜日、金曜日、月曜日です!(土日もするかも)
投稿時間は20時です!
評価やコメントとして頂けたらとっても嬉しいです!
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