⑥
「ノア君たち、今頃アメリカで何してるんでしょうね……」
お昼休憩中の村上がそう呟く。
「さあな。捜査でもしてるんじゃないのか?」
斎藤がそう返事するも、村上はまだ続ける。
「何の捜査してるんでしょうか」
「知るか!俺に聞くな!」
「そんな言い方しなくてもいいじゃないですか!気になりません?」
「ならない。なってもどうしようもない」
子供のように口を尖らせ、村上は「斎藤さん、何かまたつんつんしてません?」と郷田に話しかける。
「ははは、そうか?斎藤はいつも通りだと思うぞ?」
「いや、絶対におかしいですって!ノア君が帰ってから不機嫌ですもん」
そう話す村上を、猛禽のような目で睨む斎藤。
村上はさっと森田の背中で顔を隠した。
「ほら、さっさと食べて戻るぞ!」
森田は背中に隠れる村上を引っ張り退け、早く食べろと促す。
今日もこのチームは平和だ……。郷田はそう微笑ましく思った。
「ん?……電話か……?」
胸ポケットに入れていた携帯が震える。
電話の相手は馬場だ。
「管理官、どうされました?」
『戻ってこい、急用だ』
馬場はそう告げると、電話を一方的に切った。
「切れたな……」
「切れましたね……」
一同は残りをかけこみ、店を出た。
*
「あの……何かありました?」
郷田は馬場にそう尋ねる。
「PC事件は解決した……そうだな?」
彼はそう言う。郷田は頷き、もちろんだと返事した。だが、馬場は一枚の資料を彼に渡す。
「これは……?」
「読めば分かる」
馬場はそう言って読むよう、促した。
資料に目を落とし、文字を追っていく。
「いや……まさかそんな……」
【被害者たちの持ち物から発見されたカード】
資料には文言とともにカードの写真が載っていた。
「PC事件は同級生による警察への復讐、そして加害者への罰として事件は解決した。だがPCとは関係ない事件で、同じくカードが見つかった。これはどういうことだ……?」
馬場は怒りを抑えながらそう答える。
「……摸倣犯……ということでしょうか……」
「私もそれは考えた。だが、事件の詳細は報道もしていない。にもかかわらず、この事件は例のPCと酷似している。これ……模倣犯と説明できるか?」
郷田は言葉に詰まる。説明のしようがない……。
「この事件、我々が捜査出来ます?」
「どうだろうな……所轄が担当してる。
「そこを何とかしてもらいたいんです。模倣にしてもPCにしても、何か腑に落ちないんです」
馬場は渋々ながらも、承諾した。
「何とか掛け合ってみよう。ただ、期待はしないでくれよ」
*
馬場はメンバーに話をしていた。
「まさか……」
「おそらく摸倣だとは思うが……捜査できるか、掛け合ってもらっているが……」
郷田の顔色から、メンバーは自分たちが捜査できる確率がはるかに低いのを読み取っていた。
そして、夕方。
馬場は「一日だけならという条件付きで捜査を許してもらえたよ」と若干の安堵を見せた。
郷田達一同はすぐさま用意し、翌日の捜査に備える。
「私としては模倣犯の可能性が高いとは思ってるが……みんなはどう思う?」
「俺も摸倣犯だとは。ですが、報道していないことまで再現されているなら……PCの可能性が高いんじゃないかと……」
「僕はPCだろうな~って思うんですけど……」
森田に続き、村上は他とは異なる意見を言った。
「どうしてそう思う?」
「勘です。PC事件はもしかしたら、まだ終わってないのかもしれないですよ」
村上のその一言に、何も言えなくなる一同。
「なぜ……終わってないと言えるんだ……?」
「じ……実は……FBIの方たちがアメリカに帰る前、少しだけ僕、ノア君と話をしていたんです。その時に、ノア君から聞いていたんです……“最後に一つだけPCは事件を起こすかもしれない”って」
「おいっ!なんでそれをもっと早く言わないんだ!?もし、摸倣犯じゃなくて本当にPCが絡んでいたら、大問題だぞ!?」
斎藤は村上にそう怒鳴る。
「だ……だって確証がないじゃないですか……それで、もし混乱させたらって考えたら……確証もないこと言えないですよ……」
村上は肩を落とす。
「とりあえず、明日の捜査に備えよう。捜査の期限は一日だ……。斎藤、なぜ……ジョンソンさんは事件を起こすのかもしれないと考えたのか、お前なら想像ついたりしないか?」
郷田はそう言って斎藤の怒りを鎮めた。
斎藤は口を開く。
「おそらく……今までのPCとの繋がりを見つけたか……あるいは……PCは何かを達成するために再び事件を起こしたか……と考えられますが……」
彼はそう言う。
「明日の現場で、関連性があるのかどうか、お前に見極めてもらいたい。いいな?」
郷田は半ば強制に同意させた。
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