「じ、時間は……時計の……」

 なかなか思うように言葉が出てこない。ルーカスはじっと待つ。しかし、捜査員は苛立っているのが分かるくらいに、顔が険しかった。

「ルーカス、僕やっぱり無理です……」

 ノアはそう言って椅子に座ってしまった。

 会議に参加するという経験をさせたかったルーカス。しかし、ノアにはやはり無理だった。

「まず結論から申し上げます。被害者の死亡時刻は、時計が示す時刻であると思われます。そして殺害した犯人は、我々に何かを教えたかったと思われます。理由としましては、二つあります。まず一つ目、遺体が身に着けている時計の時刻と、遺体撮影時の時刻が異なること。これは第五の被害者を除いた全員に当てはまります。そして二つ目、これもなぜか第五の被害者を除く全員が腕時計をしていること……」

「腕時計をしていることが不自然だって言うんですか?」

 誰かがそう言い放つ。ルーカスは頷いた。

「はい。不自然なんです。なぜなら、遺体の死亡推定時刻をご覧ください。第一の被害者、彼は真夜中に殺害されているからです。何か理由がない限り、時計を着けて眠るなんてことありますか?この点についても重点的に捜査すべきだと思われます」

 彼がそう言った瞬間、捜査員たちは資料に目をやった。何かを確認しているのだろうか、その目は真剣だった。

「遺体が身に着けている時計が指す時間と、遺体撮影時の時間が異なる点から推測されること、それは……犯人は我々にものと考えられます」

 ルーカスは続けた。

「これに近い事件が、確か……ノア、分かるかい?」

「一九八五年の五月八日水曜日にフランスで起きた。事件に付いた名前が“Le crime parfait”です。これを英語に変えると“Perfect・Crime”、今回の事件と同じ名前です」

 捜査員たちはどよめく。

 さらにルーカスは続けた。

「驚くのはまだ早いですよ。名前だけが一致しているのではありません。ノア、その事件の詳細は覚えているかい?」

「はい、ルーカス。被害者は八人。第一から第五までの被害者は自分たちの存在を知らせるためです。本当の目的を達成するためのカモフラージュです。残りの三人の被害者が本当の目的。犯人たちは捜査員たちに次の事件のヒントを与えました。僕たちにはまだヒントは来てません。これから来ます。犯人たちは被害者を理由を付けて呼び出して、殺害。意味を表すところに遺体を置いた。今回もきっとそうです。被害者たちがどこで見つかったか重要だと思います。どうやって殺されたのかも重要です。フランスではこの事件はまだ解決していません。全部は分からないです。だから……覚えているのはこれだけです」

「ノア、十分だよ。ありがとう」

 ノアはにっこり笑い、席に着いた。

 ルーカスは捜査員たちに向き直り、話し始める。

「我々は、フランスでの事件も含め捜査を再開します。もちろんアメリカでの事件も。日本警察の皆さんは彼らに繋がりがなかったか、犯人の詳細など、ありとあらゆる線から捜査をしていただきたい。もし、今回の事件がフランスでの事件と同じならば、被害者はあと三人出ます」

「アンダーソンさんの言う通りです。私たちにできることは、捜査し、この事件を解決に導き、これ以上の被害者を出さないことです。力を合わせて、この事件を解決に導きましょう」

 郷田がそう言う。ルーカスと郷田は、どちらかとなく互いの手を取った。

「では、捜査再開と行きましょうか!」


「ノア、フランスでの事件と今回の日本での事件、犯人について分かる範囲でプロファイリングできそうかい?」

 ルーカスはノアにそう言う。彼は「どちらの事件もまだ解決していません。分かることも少ないです。どういう結果になるかわからないです……僕は力になれない……」と自信なさげだった。

「ノア、丸じゃなくていいんだ。三角でいいんだよ」

 パーカーがそう言う。

「三角……ですか?」

「うん。捜査って言うのは三角がたくさん積み重なって丸になるんだよ。だからノアの力と、ここにいるみんなの力が合わされば、二重丸さ!」

 パーカーはそう言ってノアの肩に手をやる。

「僕、やってみます」

 ノアは目の前に散らばる資料を集め、ペンを手に資料に何やら文字を書き始めた。


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