②
午前中に“事件は県庁所在地で起きている”と判明したためか、捜査は一気に進んでいた。
それぞれの県警が事件に関する資料をまとめ、共有し、情報交換し、犯人と被害者との接点を洗っている。
「アンダーソンさん、ちょっと……」
郷田はそう言ってルーカスを廊下へと連れだす。
「あの、非常に申し上げにくいのですが……単刀直入にお伺いいたします。ジョンソンさんは……何か障がいでもお持ちだったりするのでしょうか……お会いしてからずっとジョンソンさんを見ていましたが、少し気になる点がありまして……」
郷田のその問いかけに、顔色一つ変えないルーカス。いずれは聞かれるだろうと、心構えがあったのだろうか。彼は「ええ。その通りです」と答えた。
思いもよらぬ返事に、郷田は言葉を失った。
「アメリカでは……FBIでは、障がいのある方を捜査官としているのでしょうか……その……捜査上で問題はないのでしょうか……」
「過去にも何例か、発達障がい者を捜査官として訓練センター及びアカデミーで訓練し、当局で捜査官として仕事に務めていました。ですが、彼らにはインプットはできてもアウトプットが難しかった。それに対して、自身で嫌悪感に
ルーカスはそう郷田に言う。彼は一呼吸おいてから、「ええ。分かりました」とだけ答えた。
「あの、この時間は何の時間ですか?」
ノアはそう言って資料に書かれている時間を指さす。
「これは……Est
パトリックは英語に変えてノアに説明した。さすがのノアでも漢字までは分からないか……彼はそう思ったが、ノアは“死亡推定時刻”の文字をじっと見つめている。
「ノア、何か気になることでもあるのかい?」
戻ってきたルーカスはノアにそう声を掛ける。しかし、集中しているのかノアは返事もせず、じっと目の前の紙に視線をやっていた。
「Ich wusste es ……」
ノアはそう呟く。
「今の言葉、英語ですか?」
パトリックの隣に座っている森田がそう声を掛けた。「いや、今のは多分ドイツ語ですね……さすがにドイツ語は……」とパトリック。
「ノア、何が“やっぱり”なんだ?教えてくれるかな?」
ルーカスはノアが発した言葉を聞き取っていた。ルーカスの問いかけからすると、彼は「
「これ、死亡推定時刻、違います。この人たちが亡くなった時間は、時計の時間と同じです」
ノアはそう言って資料をルーカスに見せた。
「まるでなぞかけだな……」
森田はそう呟く。
「時計の時間……ノア、その時計はどこにある時計なんだ?」
ノアはそう聞かれ、少し考えた後に「腕時計です」と答える。ルーカスは自分の腕時計を見た。そして何気なく、第一の被害者・佐々木英雄が着けている腕時計に目をやる。
「ん……?これ……」
彼はそう言って資料を見比べた。
「なるほど、だから“死亡推定時刻は時計と同じ”なんだな」
そしてノアに近づき、目線を合わせ、自分の見解を彼に説明した。
彼は自分の考えを汲み取ってくれたルーカスを見て、少し微笑む。
ノアに詳細の説明は難しい。ルーカスは彼の代わりに“時計と同じ”の意味を説明しようと、郷田に声を掛ける。
「ここにいる全員にも説明したいのですが、その場合はどのように……」
ルーカスは郷田に尋ねた。郷田は「少しお待ちください」というと、会議室にいる全員に呼び掛けた。
「新たに分かったことがある。みんなこっちに注目してくれ!」
その声に捜査員全員の視線が集まる。
「どうぞ」
「ありがとうございます。FBI特別捜査官のアンダーソンです。実は新たに分かったことがあります。資料に注目してください。被害者たちが身に着けている腕時計、時刻が表示されていますよね。アナログもデジタルも。その時刻、ここに座るノアは違和感を感じたようです」
彼はそう言ってノアを見た。
「彼曰く、腕時計が示す時刻が、本当の殺害時刻だと言っています」
「いや、ちょっと待ってください!腕時計の時刻って言いますけど、遺体の写真を撮っているからその時刻なんじゃないですか?それに検視で死亡推定時刻が出されています。時計が示しているのは遺体撮影時の時刻であって、殺害時刻ではないと思いますが……」
そう言うのは巡査部長である結城だ。
彼の指摘に戸惑うことなく、ルーカスは説明を続ける。
「確かにあなたの言う通り、時刻は遺体撮影時の時刻を示している……本来なら」
会議室にどよめきが起こる。
「ノア、ここからは自分で説明できるかい?」
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