パーフェクト・クライム

文月ゆら

プロローグ

 僕はいつものように、目覚ましの音で目を覚ました。時計を見ると午前六時半。ベッドから降り、布団を整える。スリッパを履き、全身が見える鏡の横にある棚へと向かう。棚の上には前日に用意してある洋服。パジャマを脱ぎ、用意してある服へと着替えた後は、鏡の前へ立ち、全身をチェックする。「うん。大丈夫だ」僕はそう言った。そして部屋の扉を開け、階段を降りる。朝からいい香りが家じゅうに広がっている。彼が作った朝食の匂いだ。

「おはよう、ノア。よく眠れたか?」

「おはようございます。ルーカス。よく眠れました。今日の予定は何ですか?」

 僕の名前はノア・桐生・ジョンソン。みんな僕のことをノアと呼ぶ。真ん中の“桐生”は何だか嫌なんだ……。みんなはそれを知ってくれている。だから、みんなは僕のことを“ノア”って呼んでくれる。

 そして僕の目の前に立つのは、僕と一緒に住むルーカス。彼の名前は、ルーカス・アンダーソン。彼は僕の世話をしてくれる。食事を作り、洗濯をして、掃除や買い物、仕事にも一緒に行く。僕はお父さんみたいだと思っている。

「今日の予定は、一番先に長官のところへ行くよ。時間は……」

 彼はいつものように僕に一日の予定を説明してくれる。僕が戸惑わないように。彼が説明する今日の予定を聞いた後は朝食を摂る。これもいつもと同じ。

「今日のメニューは、スクランブルエッグにベーコン、トマトとレタスのサラダ、コンソメスープ、ブレッド、コーヒーだよ。ノアのコーヒーはミルクにしてあるからね」

「僕のコーヒー、ミルク二つ、シロップ二つですか?」

「そうだよ。ノアの好きなコーヒーだ」

 彼が作った食事を口に運ぶ。僕の好きな味だ。コーヒーを一口飲む。いつも通りだ。僕は自然と笑顔になる。ルーカスはそんな僕を見て、食事を始めた。

「ルーカス、ニュースですか?これはどこの国?」

「ここは……日本のようだね。日本では今、立て続けに事件が起こっているようだ。なんでも“救世主事件”と言うそうだ。興味が湧いたのか?」

「興味はありません。僕の事件じゃないから。それになんだか日本は苦手なんです。よくわからないけど……」

 彼は笑うと、スープを口に運ぶ。僕もテレビから視線を外し、食事を再開した。

「食事が終えたら、準備して長官のところへ行こう。ノア、歯を磨いて髪もかすんだよ」

「はい。分かりました」

 朝食を終えると、ルーカスの言う通り、僕は歯を磨き髪を梳かした。特に変わらないように思うが、ルーカスは「それが常識なんだとよ」と教えてくれた。彼が言う“常識”が僕には分からない。でも、彼の言う通りにする。ルーカスの言う通りにして怒られたことはない。むしろ、いつも褒められる。僕は嬉しい。

 彼と家を出るときに、ふと日本で起こっている事件が頭に浮かんだ。僕のもう一つの故郷だからかな。でも僕は気にしないで、ルーカスと仕事へ向かった。

 こうして今日もまた、僕の一日が始まる。

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