Chapter7 三点収束魔術 (1)

「あー、封魔術も大変だったし。

 ウィスプも大変だったし。

 今回のステップは簡単だといいけど・・・」


 魔術修行のステップが進むにつれ、ステップクリアまでの労力が増えているように感じる。

 そもそも、後何ステップくらいあんの?

 ほんとに終わるの?

 エターナルなの?

 この辺りで、ちょっとばかし簡単なステップが来てくれないかなぁ。

 そんなこんな考えながら、ノムのほうをチラ見する。


「・・・(笑)」


 ノムは微笑びしょうを浮かべている。

 それは『前回のステップは大変だったよね。少し休憩しようか』という慈愛に満ちた温かい微笑み。

 ・・・。

 で、あるはずはなく。

 『そんなわけねぇだろ馬鹿』とでも言わんばかりのサディスティックな嘲笑。

 最近この表情、よく見る。

 

「今回のステップは今までで一番大変」


 ですよね~。

 『世の中そんなに甘くない』という世の中あるある。

 でも、前回より難易度が上がるとなると、本当にステップクリアできるか不安になってくる。


「私、クリアできるの?」


「エレナなら絶対大丈夫」


 今までの話の流れに逆らうような明確な断定。

 がしかし、そう自信満々に言われても、まったくもって納得できないのですが。


「なにゆえの自信さ」


「ダイアブレイクを3日で覚えたエレナなら」


「3日もかかったんじないの?」


「通常は習得まで1ヶ月は掛かる」


「えっ!?そうなの?」

 

 私、結構頑張っていたらしい。

 その割りに、たいして褒めてもらってないのだが。

 『ダイアブレイクごときで3日もかかっちゃって、プークスクス』とか思われてるのかと思っていた。

 もう少し私のモチベーションを意識した育成方針を立てて欲しい。

 育成方針がドライすぎる。

 と。

 一通りのノムへの愚痴@脳内が完了したところで、別のことが気になった。


「『通常』って何?」


「マリーベル教会教会騎士団養成院の魔術師養成での話」


「あそこ、そんなことやってるんだ」


 『マリーベル教』とは、この世界で最も信者の多い宗教であり、ほぼ世界全域で信仰されている。

 教会騎士団は、世界秩序の保守を目的とし、犯罪者の制裁や暴動の沈静化を行う教会内の組織である。

 その影響力は絶大で、その気になれば国の1や2つ程度、簡単に壊滅させられるであろう。

 マリーベル教とノムが所属していたヴァルナ教は友好関係にあるため、ノムはマリーベル教の事情に詳しいようだ。


「ちなみ私は、ものごころついたときには封魔術を使えてた」


「私より断然すごいし」


「エーテルを使おうとしてスパークを覚えたエレナも似たようなもの」


「と言うことは、ノムは封魔属性の魔法が得意ってことだよね。

 封魔術を重点的に育てたりしないの?」


「私は、『魔術は全属性を均等に』が信条だから」


「ふーん」


「今回のステップでは、全属性の性能に関わる重要な話をする。

 少し難しいけど、頑張って取り組んでみて」


「うぃーっす」


 どうやら魔術の講義が始まるようだ。

 魔導学のノート、取ってくるか。






*****






「今日は『三点収束魔術』の話をする」


「三点収束魔術?」


「その名前どおり、魔力を三点で収束する」


 なるほど。

 わからん。

 うまくイメージが構築できず私が眉をひそめていると、ノムが説明を続ける。


「エレナが今、スパークの魔法を使うとして、このとき、1つの点に魔力を収束させる。

 つまり、コアが1つだけである収束法」


「確かに、普通は1ヶ所に集めるかなー」


「これは一点収束、単点収束と呼ばれる。

 一方、三点収束ではコアを3つ作る」


「コアが3つ?」


「例として、雷術の場合で説明する。

 まず、3つのコアにプレエーテルを収束させる。

 そこから、四元素変換を行って雷系のエネルギーに変換する。

 と同時に、この3つのコアを1ヶ所に近づけ合成する」


「コアを合成?

 そんなことできんの?!」


「三点収束のスパークは、当然、一点の時よりも高威力になる。

 魔術名もスパークではなく、トライスパークとなる。

 トライは”3”を意味する。

 また、ミドルスパークと呼ばれることもある。

 他の属性も一緒」


「『一点に三点分の魔力を集める』じゃだめなの?」


 何故、わざわざ3点に収束するのか。

 現時点では納得できない。

 その疑問に答えるように、ノムが説明を続ける。


「1点のコアに収束できる魔力には限界がある。

 その限界が、今の魔術師の力量そのもの。

 1点に10ポイントしか魔力を集められないのなら、3点分の30ポイントなんて、1点に集められるわけない。

 でも三点なら、コア3つ分の魔力を収束できる。

 1コアの収束可能魔力量の限界値が低くても、強い魔法を使用できる。

 1点の限界10ポイント、これが3つ。

 3個合成で3倍。

 10+10+10=30ポイント、理論的には。

 慣れてくると、単に3発放つよりも魔力効率が良くなる」

 

「そうなんだ」


「ちなみに同時に3発の魔術を放つために、同時にコアを別々の地点に3つ収束することは『三地収束』と言う」


 確かに、1つのコアに3コア分の魔力を流し込めと言われても無理だと思う。

 実際にやってみた事があるが、ある程度魔力を流すと、それ以上魔力が増えていかない。

 暴発が怖いので無理できない、ということもあるが。


 だいぶん納得できてきた。

 が、もう1点だけ気になる点がある。


「なんで三点なの?」


 別に2点でもいいのでは?

 ノムの趣味かな?


「三点収束の方が、二点や四点や五点よりも効率がいいの。

 明確な理由は、私にはわからないけど」


「ふーん」


「ただ、六点収束はもっと効率が良い。

 でもこれはとても難しいから、かなり後のステップの話題になる」


「不思議だ」


「別に2つや、4つコアを作って合成しても、ダメではない。

 でも実際やってみると、3点の効率の良さがわかるはず」


「まずは3点からお願いします」


 先生が3が正攻法と言うのなら、あえて邪道から攻める必要もないだろう。

 『楽できるところは楽をし、楽できないところは楽できる方法を考える』。

 これが私の信条だから。

 キリッ。

 脳内で先ほどのノムの信条吐露を真似してみました。

 声に出して言うと殴られそうなので、脳内で留めておきますね。

 

「『じゃあさっそく今から、三点収束習得のための特訓を開始する』ってことだよね」


「うーん・・・

 まだ習得できるか微妙なレベルだと思う。

 もう少し闘技場で魔力を強化してからにする」


「うーっす」


「まず最初は三点収束のバースト、トライバースト習得を目指す。

 これに必要な収束・放出の能力、さらに炎術属性を意識的に強化して」


「やっぱり最初は炎術なんだ。

 炎術苦手なのって、かなり不利なんだなー」


 少し前までは好きだった炎術。

 が、エレメントを炎術補助のレッドエレメントから魔導術補助のパープルストーンに変えた辺りから、どうも属性成長が遅くなったように感じる。


「三点収束はバーストで覚える人が多いから。

 でも今は不便かもしれないけど、後々は他の属性で十分に補える。

 今はエレメントを使って炎術の強化をするのがいいと思う」


「そうだね。

 ありがとう、ノム」






*****

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