Chapter6 封魔術 (3)

 『魔法防御力を増補する『レジスト』の魔術を習得する』

 ダイアブレイクをマスターした私に、ノム先生が課題を提示してきた。

 『レジストは術者の体を包むように展開される封魔防壁を、強化・増幅する魔術であり、一時的に魔法防御力がアップする』

 とのことだ。


 闘技場ランクLにて、お馴染みの蛇、ゴーレム、コボルド、モグラ、軟体生物のモンスター相手に、新術ダイアブレイクを織り交ぜながらの交戦を繰り返す。


 この中で、新術ダイアブレイクの特性に気づく。

 はっきり言って、弱い。

 射程で魔導術に劣り、威力では炎術に劣る。

 使いどころがわからん。

 が、今は封魔属性の新術『レジスト』の習得に向け、文句は言っていられない。

 ほどなくして『レジスト』の魔術習得条件が整った私は、ノムから新術習得の指南を受けることになった。






*****






「・・・。

 できてるの?」


「できてる。

 成功」


 レジストの魔術は、思ったより楽に習得できた。

 が、魔法防御力が向上している気がしない。

 違いがわからん。

 これ、できてるって言っていいの?

 ノムの判定基準ってよくわからん。

 

「ぜんぜん違いがわからないんだけど」


 率直に感想を述べた。


「じゃあ、レジスト有りの場合となしの場合で、私の魔法を食らわせてダメージ量比較しようか」


「嘘です、やっぱりわかります!

 効果あります!ほんとに、はい」


「残念」


 そう言いながら嘲笑を浮かべる青髪。

 マッドサイエンティストかお前は。

 

「今は効果は微小だけど、使ううちに効果量も増えてくる。

 術者強化系の魔術は、いきなり大きな魔力を付加すると、体に害を及ぼす可能性があるから。

 最初は仕方ない」


「さようですか」


 レジストの魔法は、今まで習ってきた攻撃魔法と異なり、コアを生成しない。

 体表を覆う『封魔防壁』とやらに意識を集中し、自分の体表に向けて、封魔の魔力を流していく。

 これ。

 自分を攻撃していることになんないの?

 大丈夫なの?

 ただ、実際やってみた結果、体にダメージを受けている感覚はなかった。

 同時に、『守られてる感』もなかったわけであるが。

 釈然としない。


 まあ、ノム先生がいいというのだから、いいのだろう。


「それじゃあ、闘技場の次のランクに挑戦してみようか」


「次は確かランクKだったよね。

 早速、今から挑戦しようかな」


「今日は私も一緒に行く」


「めずらしい。

 ・・・。

 どうしたの?

 最近は、全然見に来てくれなかったのに」


「ランクも上がってきて、そろそろ、

 死んじゃう可能性もあるし」


 なにそれ怖い。

 どうやら次のランク、何かあるらしい。

 その詳細はノムの無表情フェイスからは読み取れない。

 が、冗談で言っているわけではないことだけは嫌でも伝わってきた。






*****






 闘技場ランクK、4戦目までは特に問題なし。

 見覚えのあるモンスターを無難に撃破していった。


「次で最後か」


 最後の相手が登場するであろう、北の入場門を見つめる。

 ノムの警告に意図があるのなら、次の相手は高い殺傷能力を有している可能性が高い。


《・・・ヴン・・・ヴン・・・ヴン・・・ヴン・・・・・・》


 現れたのはピンク色に光る球状の塊。

 魔力感知の能力に乏しい自分でも、それが何かしらの魔力を秘めている物体であることはわかる。


「なんだあれ?」


 あれも魔物なのか?

 現状、詳細不明。


 しかし。


 防衛本能が警鐘を鳴らす。 

 あれはやばい。


 戦闘開始前に、情報収集、考察を急ぐ。

 でもどうやって倒すんだ?

 武器で攻撃していいのか?


「エレナー!」


 攻略に向け思考を巡らせていると、ノムが声をかけてきた。

 私が初めて闘技場に出場した際にノムから指示を受けたときは、観客席の後ろの方から適当に指示を出していた。

 弁当食べながら。

 しかし、今回は最前列に陣取っている。

 この対応の差に、本件の危険度の高さを見出す。


「この魔物はウィスプと言う。

 丸っこい形をしてるけど、凶悪。

 油断すると死ぬ」


「死なない方法とかないのー」


「ウィスプはレイ系の魔術で攻撃してくる。

 しかも物理攻撃はほとんど効かない。

 でも、魔法攻撃が効くから、魔術で倒せる」


 そこまでノムが伝えてくれたところで、ウィスプが闘技場のステージに上がってきた。

 もう少し情報を聞きたかったけれど。


 物理攻撃が効かず、相手も魔法を使ってくる。

 完全な『魔法 VS 魔法』の勝負。


 ・・・。


 今までの修行の成果が試されるのだと。

 その考えに行き着いたとき。

 『逃げる』と言う選択肢は消えていた。




<vs ウィスプ ...戦闘中...>






*****






【** ノム視点 **】



「あー、すごい疲れた。

 ウィスプ厄介。

 っていうか怖い」


 ウィスプを撃破したエレナと共に宿へ帰る途中、彼女がため息交じりにつぶやいた。

 初めてウィスプを相手したことを考えると、肉体的にも精神的にも疲弊して仕方ないだろう。

 今まで相手にしてきた『物理勢』とは異なる、遠距離からも致命打を繰り出せる相手。


「お疲れ様」


「私の戦闘どうだった?」


 エレナから聞かれ、私は、改めて今回のウィスプ戦を振り返る。

 ポイントは3つある。

 1つ目は魔法を使ってくる相手への対応に関して。

 ウィスプが用いるのは光術、具体的にはレイブレッドのみ。

 相手がどのような魔術を使ってくるかを見極めることが重要だ。

 エレナもこの点は理解していた。

 中距離程度の間合いを取りながら、相手の魔術攻撃をしばらく観察し、攻撃発動動作や放出速度、射程などを確認していた。

 

 2つ目は有効属性について。

 ウィスプは光の魔力で構成される魔物であるので、光属性の魔術は効果が薄い。

 その他の属性は効果があるが、特に有効なのが封魔術。

 エレナは一通りの属性を試していた。

 全属性の魔術をヒットさせた段階でウィスプが力尽きてしまったので、エレナが有効属性を見抜いていたかはわからない。

 ただ有効性を確認しようとしていたことだけは確かであり、その点は非常に評価できる。

 

 3つ目は魔法防御に関して。

 ウィスプのように高い魔法攻撃力を持つ相手に対しては、今回のステップで習得したレジストの魔術で魔法防御力を向上させておくことが非常に有効となる。

 エレナはレジストの魔術は使っていなかった。

 というより、ウィスプの光術攻撃を完全に見切っていたので、使う必要もなかった、ともいえるが。


 以上、3つポイントを総合して、十分に及第点といえる。

 

「よかった」

 

 私は短くそう伝えた。

 ただ、レジストの有用性に関しては説明をしておきたい。


「ウィスプと戦うときはレジストの魔術で魔法防御力をアップさせてから近づく方がいい」


「だから先に言ってって!」


 エレナが文句を言ってくる。

 ちょっとおもしろい。

 無視して続ける。


「ウィスプは光術に耐性がある。

 逆に弱点は封魔術」


「だから先に言ーーー

 以下同文っす」


「魔物によって耐性を持つ属性が違う。

 でも封魔術に対し耐性を持っている魔物は少ない。

 それが封魔術の強みになっている。

 封魔術自体の攻撃力は弱い。

 でも相手の属性耐性まで考えると、他の属性に匹敵する」


「今回のウィスプ戦でなんかいろいろと自信なくなってきたかも。

 かなり苦戦したし・・・」


「自信がつくまで同じランクに出場し続ければいい。

 そんなに簡単には強くならない。

 同じことを、何度も繰り返すしかない」


「うーん」


「それに・・・

 エレナはわからないかもしれないけど、ちゃんと強くなってる」


「ほんとにー?」


 エレナは困ったような笑みを浮かべていぶかしむ。

 その後、前を向くと宿に向けて歩調を速める。

 エレナが私の前を歩き出す。

 

「しかも、すごく速いペースで・・・」


 エレナには聞き取れない声でつぶやく。

 彼女の背中を追うように、私も歩調を速めた。

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