第37話契約の条件
新章20.契約の条件
恐怖心はまだある。後悔することも、諦めることも、これから先幾度となくあるだろう。
でも、これだけは今日、自分自身に誓う。
「もう逃げねえ。」
じゃあ始めようか。
反撃、開始!!
――――――――――――――――――――
一方、真宗がシルヴァと話している時、リズはと言うと…
「だぁぁ!くっそ!!固すぎんだろこいつ!!」
突然だが、リズには必勝の魔術がある。名を「青天の霹靂」と言い、効果は「防がれるたびに威力が上昇する」というものだ。
しかし、今回は何度打てども倒し切るどころか逆にリズの魔力が尽きそうなほどだった。
リズの魔力最大値は520万ほど。真宗よりもやや少ないといったところで、魔力切れを起こすことなどそうそうない。
それほどまでにトヘトヘが頑丈なのだ。いや、頑丈なだけではない。魔力量も純粋なパワーも桁違い。流石は『三界龍』の一角。強さの次元が違う。
「あぁぁあ!もうこれで11回目だぞ!?マジのマジでそろそろ傷くらいつきやがれぇぇ!!」
先ほどから出し惜しみせず、青天の霹靂を連発しているのだが、倒すどころか傷一つつけることすらできていない。
(やべえな。舐めてかかってたぜ。ここまで戦力差があるとはな。)
唯一の救いは、さっきのブレスのクールタイムなのか、これだけ攻撃を仕掛けていても動きだす気配すらないということだ。
(一か八か、ぶっ倒れるの覚悟で魔力絞り出すか?)
一時はそうも考えたほど、追い込まれていた。しかし、結局そこまでする必要はなかった。
「えーっと。なんて言ったっけ?こ、光々刺突!!って、早すぎ早すぎ!!うわぁぁぁぁあ!!!」
瞬間、目の前に光の道筋ができ、先ほどまで傷一つつけられなかったトヘトヘから血が噴き出す。そして、ほぼ同時にトヘトヘの後ろにあった建物がとてつもない衝撃を受けて崩壊した。なぜなら……
「いってぇぇぇぇ!!制御効かなすぎだろこれ!!」
頼りなさすぎる助っ人。遅れて登場である。
――――――――――――――――――――
いったたたた。クロスから使い方を教わった技をぶっつけ本番で使ってみたわけだが、まさかの威力でトヘトヘにダメージを与えたのはいいものの勢い余って後ろの建物ぶっ壊しちまった。
「おっと。リズ大丈夫か!?」
リズのところに駆けつけた瞬間、リズが前方に倒れ込んできた。俺がウダウダしていたせいで、かなり無理させていたみたいだ。
特に目立った外傷はないのを見ると多分魔力切れだろう。
「シルヴァ!!こいつ頼む!!」
「おう。任せろ。けど大丈夫か?1人で。」
「まあ、やるだけやってみる。」
リズをシルヴァに託し、もう一度トヘトヘに向き直る。
うげ、正面から見るとマジでおっかないな。
俺がクロスから預かった力は、属性を司る属性だ。名を極属性といい、10大基本属性を極めた属性らしい。
さっき使った光々刺突は名の通り、光属性の技で、前方に向かって全力で突進する技だ。
ちなみに、さっきの初撃で調節ミスって魔力半分くらい持ってかれた。つまり、あと5回。5回でこの化け物を倒すとか不可能に近い。
リズもぶっ倒れちまったし、本格的に援軍頼りになるな。
ええい!こうなりゃ援軍が来るまでに少しでも削っといてやらぁ!
「すぅぅぅ。百火繚乱!!」
はい。続いて繰り出しましたるは、これまた新技、百火繚乱。剣を回転させてから斬撃を繰り出す魔術で、回転数に応じて火力が上昇する。
一応ダメージは通ったみたいだが、まだまだ浅い。
ってうわぁあ!あぶっな!いきなりトヘトヘが動き出して、迎撃対策に入ってきた!
やっぱさっきまで動いてなかったのは、最初のブレスのクールタイム的なやつか。
動き出したものの、最初に出したやばいブレスを使ってくる素振りはなく、尻尾とか爪や牙による物理攻撃ばかりだ。
とりあえず魔力がかつかつなので、魔術は使わず「流」でやり過ごすが、一撃がまあ重い。重すぎてほら、受け流しきれなくてメギドフォルンすごい音立てて軋んでるもん。
やばい!油断した!こいつ…上ばかり狙って注意を逸らされて、尻尾で足払いしてきやがった。
「くっ!影縫い!!」
影縫いは自分の影に潜り込み繋がっている影の中を自由に移動することができる魔術だ。攻撃技ではないが、ここからの応用は効きやすい。例えば……
「雷斬り!!」
そう。クロスから魔術の効果に関す説明を受けた時、真っ先に思いついた即死コンボ。影縫いで相手の死角に潜り込み、ゼロ距離で雷斬りを放つ。
雷斬りは相手との距離が近いほど威力が増す、雷属性の魔術だ。
よし!今までで一番いいダメージ入ったんじゃないか?このまま押し切れるかも!!
そう思った矢先、先ほどの猛攻で舞った砂埃の中からトヘトヘの腕が伸びてくる。そして、そのまま俺の後頭部を抉り…はしなかった。
なぜなら、「朧月」が発動し、トヘトヘの腕を弾いたからだ。朧月は自動発動型の闇属性魔術で、自分の視覚からの攻撃を自動で防御してくれる便利なものだ。
まあ、色々条件はあるんだけど、今回はうまいとこその条件に当てはまってくれたみたいだな。
とはいえ、俺が使えるのはこれで残り一回になっちまったわけだ。
「真宗くん!!!」
その時、不意に甲高い声が響いた。声がした方を見てみると、リズを守っているシルヴァの横にセリカが立っていた。
「真宗!そいつの相手はしばらく俺が引き受けるから、セリカの話を聞いてやってくれ!!」
「わかった!!けどお前一人で大丈夫か?」
「大丈夫だ。問題ない。」
心配しかないんだけど…。まあ、なんだかんだでシルヴァは強いし、大丈夫か。…大丈夫だよな?
「で?なんだ?話って。」
「あのね?さっき応援を呼びに行ったんだけど、この任務に人手がこれ以上必要とは想定してなかったみたいでね?かなり遅れちゃうみたいなの。」
「マジか!けど、そうなるとやばいぞ。俺はあと一回魔術を使えばぶっ倒れるし、シルヴァは既に涙目になってる。ふ、ふふっ。」
だめだ、シルヴァだって必死に時間を稼いでくれてるんだから、あまりにも無様だからって…ふふっ。
「でね?いっこだけあるの。あいつを倒せるかもしれない方法が。」
「それって?」
「真宗くん。私と………私と、結婚してほしいの!」
……………………………………………………
To be continued
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