第16話旅はまだ終わらない
序章最終話.旅はまだ終わらない
正直、この世の全員が善人だなんて思ってないし、誰かのためにとか、そんな崇高な考えなんて持ってない。でも――
「そんな健気な姿見せられて、放っとけるわけねえだろうがぁぁぁぁ!!!」
咄嗟に女の子とゴブリンとの間に割り込みじいちゃんにもらった愛刀、メギドフォルンで棍棒を受け止める。
案の定棍棒には傷1つついていなかったが、棍棒を渾身の力で振り下ろしたゴブリンは重心がぐらつき後ろにバランスを崩した。
すかさず足払いをしてゴブリンを後ろに倒すと、とりあえず顔面を殴る。こんなとこで剣なんて使ったら後ろの子たちに血がかかっちまうからな。
渾身の1撃でゴブリンをぶっ飛ばし、チラとイナたちのほうを見ると、どうしていいのかわからずおどおどしていた。
まあ、あの2人なら自分の身くらい守れるだろ。ロケラン持ってるし。とにかく今はこいつをどうにかして早く他のやつも倒さねえとキリがない。
「き、君は旅の人だろう? 何故こんな小さな村のためにそこまで……」
そんなことを考えていると、村長らしき人物から声をかけられた。
言われてみればそうだな。確かに、たまたま通りかかっただけの村だ。別段思い入れとかもないし、メリットなんて、ありゃしないんだけど。
強いて言うなら理由はただ1つ
「ムカつくんだよ! 抵抗する力もない奴が無抵抗に殺されてくのを見るのが! 少しでも抵抗できてるなら俺だって身を呈して守ったりなんかしねえ! けどな、無抵抗の子どもをいたぶるクソ野郎が好き勝手してんのは見てて腹立つんだよ!」
だめだ。初めての戦闘でハイになってるのか、訳わからないこと言ってる。けど、紛れもない本心なのは確かだ。
「そんな理由で……?」
「そうだよ悪いか! あいつらがムカつくからぶっ飛ばすんだよ! てなわけで! ゴブリンども。俺もお前らを殺しはしねえ。けど、かかってくるなら戦意喪失して、尻尾巻いて逃げるまでタコ殴りにすんぜ?」
「あいつ、あれよ。殺す勇気もないのをああやって誤魔化してるのよ。ヘタレね」
「…………ヘタレ」
「そこ! せっかく人がカッコつけてるのに好き勝手言ってんじゃねえ! んなことより、お前らも手伝えよ!」
「こ、これの使い方がわからないから今色々確かめてる最中なのよ!」
「そういうのは、王都から出る前にやっとけバカぁぁぁあ!!」
いかん。あいつら話にならない。それより、今はこのゴブリンに集中だ。と、ようやくさっきぶっ飛ばしたゴブリンが起き上がったみたいだな。
とりあえずこの愛刀を……ぶん投げる。そうすると、嫌でも剣を避けなきゃいけなくなるから、そこにこうやって回し蹴りをぶちこむわけよ。
よし! これで1体処理完了! じゃ、残りは後4体か。
メギドフォルンを拾い直して、その流れで棍棒を受け流す。
『逢魔流剣操術:流』
ってな技だ。剣先を相手の攻撃に合わせて相手の攻撃をそらす。言うて俺も実践で使うのは初めてだから、成功してくれてとりあえず一安心だな。
で、受け流してよろけたところをぶん殴り、後頭部強打させて、もう1体ダウン。
残りの2体は仲間がやられて呆然としてたから、雑に顔面をぶん殴ってフィニッシュ。
「さて、最後に残ったのはお前か」
最後に残ったのは、他のゴブリンと比べるとひと回りほど大きい、見るからにボスキャラ臭漂う目つきの悪い奴だった。
というより、明らかに他のやつより強そうだったから怖くて後回しにしてたんだけど……
「これ以上被害増やすわけにはいかねえから1発きついの行くぜー?」
なるべく弱く、なるべく弱く、なるべく弱く! ヴェストの時みたいな火力じゃ、この村ごと消し飛んじまう。だからなるべく弱く、最小限の力で。
「うぉぉぉぉぉ!!! 『龍嵐刃舞』!!」
直接狙うのではなく地面に叩きつけ、ボスゴブリンを風圧でヨロケさせる……これで本命が防がれない!
「イナ! 今だ! やっちまぇぇぇぇ!!!」
「わかってるわ……よっ!」
イナがドヤ顔で放ったロケランは、ゴブリンだけでなく俺も巻き込んで吹っ飛ばしていた。
「ばばば、バカじゃねえの!? もうちょっとで俺に直撃するとこだったじゃねえか!」
「し、仕方ないじゃない! 狙いにくいんだもの!」
「仕方なくねえよ! じゃあ、そのスコープは何のためについてんだよ!」
あっ。みたいな顔しやがって。スコープまでついてる高級ロケラン使いこなせてねえじゃんか。
「ともかく、これで一件落着だな」
「よお、一件落着のとこ悪いんだけど話いいか?」
仰向けに寝っ転がったままそう呟くと、誰かからそう声をかけられた。
ちらと、声の主の方に目をやるとそこには意外な人物が立って見下ろしていた。
「門番のおっちゃん!? いや待て、王都で会ったおっちゃんの方か?」
「どっちも俺だよ。あんたの後をずっとつけてたんだ。キャラが違いすぎてわかんなかっただろ?」
マジかよ。似てるとは思ってたけどまさか同一人物とは……
「何で俺なんかを?」
「そりゃ、200年不動の『逢魔』が代替わりしたとなりゃ、ギルドとしては監視せざるを得ないだろ」
それもそうか……って、このおっさん俺がヴェストとあった日から俺をつけてなかったか?
「ギルドの情報網侮るなよ? あんたが鬼ヶ島を出てからずっと監視対象だ」
「そっか、で? 監視のあんたが出てきたってことは、相応の理由があるんだろ? 俺はこの先どうなるんだ?」
「そう怯えるな。別に取って食ったりはしないよ。俺はただ勧誘しにきただけさ」
「勧誘?」
「そ。あんた。ギルドに入らないか?」
そうきたか。まあ、元々目的地はギルドだったから別に構わないけど……おっ! ちょうどいいタイミングで村人の安否確認しに行ってくれてたイナたちも戻ってきたな。
「イナ。ルナ。おつかれさん。村人は全員無事か?」
「ええ。1人も怪我人はいなかったわ! それよりこの人は?」
「そういや、名乗ってもなかったな。俺はシルヴァ。よろしく」
「このおっさんからギルドに来ないかって言われてさ。一応お前らの意見も聞いとこうと思って」
「このおじさんは怪しいけど。目的地は変わらないんでしょう?だったら、別にいいんじゃない?」
「…………イナに同意」
「じゃ、決まりだな。ギルドはすぐそこだし。村がこの状態じゃ、寝泊まりもできないだろ。ってわけで、このまま担いでいくぞ」
そんなこんなで、シルヴァにおぶられた俺は。というか、俺はおぶられて、イナとルナはそれぞれ両脇に抱えられて……
待て待て待て、このおっさん。今、ギルドはすぐ近くって言わなかった?ここからギルドまでは後80キロはあるぞ!?
♦︎♦︎♦︎
そこからギルドまでは、5分とかからなかった。
「あんた化け物か!! ……って、これが――」
「そう。ようこそギルドへ。そして西方公国――西公へ。歓迎するぜ?」
そこには、見る者全てを圧倒する巨大な建物がそびえ立っていた。
……………………………………………………
To be continued
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