第15話始まりの村にて

序章14.始まりの村にて


「マジで?」


 そんな俺の問いにイナとルナは元気よく頷く。

 いや、言ったよ。言いましたよ。「うちくるか?」って。けどさ、本当にくるとは思わないじゃん。


「お前らマジで言ってんの? 本当に? 本当についてくるの?」


「だからそう言ってるじゃない!」


 あ、これもはや俺に拒否権とか無いっぽい。誰だよ軽々しく『くるか?』とか言ったやつ。


「はぁ、もう分かったよ! ついてこりゃいいだろついてこりゃ!」


「何でそんな上からなのよ!」


「お前にだけは言われたくねえよ!!」


 てなわけで、面倒くさい双子が旅の仲間に加わった。さらば俺の平穏な旅。こんにちは騒がしくも問題だらけの旅。


 そしてこの時の俺は知らなかった。この先さらに問題児が増えていくこと。そして、自分自身も問題児であることを。


「「ぶふぇ!」」


「あ、こけた」


 先が思いやられるなぁ……


♦︎♦︎♦︎


「ねえ、真宗。あたしたち、よりたいところがあるんだけど」


「どうしたんだよ改まって。段ボールのとこか?」


「あたしたちもあの段ボールでずっと暮らしてたわけじゃないわよ。寝床は別にあるの。そこに――」

「…………そこに私たちの相棒が


「別にいいけど、それってどのくらいの距離なんだ?」


「すぐそこよ。でも――」

「どうしたんだよ。お前が塩らしいなんて返って不信でしか無いぞ」


「失礼ね!」


「…………不信」


「ルナまで!?」


「ああもう! 気を遣ったあたしがバカだったわよ! ついてきなさい」


 こいつがここまで言うということはそんなにやばい場所なんだろうか? とにかく、覚悟を決めた方がよさそうだな。

 って、待てよ?


「何で俺まで行くことになってるんだ? 二人で行ってこいよ。俺はここで待ってるから」


「いいからさっき行くわよ!」


「俺に拒否権はないのかよ」


「…………真宗、無様」


「何でお前さっきからそんな辛辣なんだよ!」


 いつまで経ってもルナのキャラが掴めない。


「……気分?」


 よし。こいつは後で絞めよう。と、そんなやりとりをしているとイナがとある裏路地の扉の前で足を止めた。こいつらと最初に出会った段ボールのある路地をさらに進んだところだ。


「着いたわ。……覚悟しなさいよ」


 強気なこいつがここまで言うとは、一体この先になにが?

しかし、その答えはすぐに分かった。


「くっさぁ!!!!」


 やばい! 尋常じゃない! 臭すぎる。いやもう形容し難いくらいに臭い! 強いて言うなら生ゴミを三日三晩煮詰めたような匂いだなこれ。


「おばえらごんなどごずんでだのがよ」


「なんて言ってるかわかんないわよ!」


「お前らこんなとこ住んでたのかよ!」


 おうぇぇぇぇ。鼻摘んでないと死にそうになる。


「「あった!」」


 俺が酷すぎる臭いに悶絶もんぜつしていると2人が嬉しそうな声を上げた。


 ルナが持っていたのはシンプルな装飾のレイピアだ。なるほど、あの細さなら小柄なルナでも振り回せそうだな。

 となるとイナの相棒ってのも剣なのかな――


「お前なに持ってんだよ」


「ロケットランチャーよ!」


「んなもん見ればわかるわ! そうじゃなくてなんでそんな物騒なもんもってんだよ。しかも銃火器なんて超高級品じゃねぇか!」


「わかるわけないじゃない。あたし記憶喪失なのよ?」


「何でお前はそう毎度毎度偉そうなんだよ。てか、見つかったならさっさと離れようぜ。鼻が限界だ」


「そ、そうね。あたしもここには長居したくないわ」


「…………同感」


 そんなわけで俺たちは満場一致で、このゴミ捨て場を離れることにした。


♦︎♦︎♦︎


「どうする? 誕生祭を満喫してから行くか、それとももう行くか?」


「別にあたしは興味ないしいいわよ。それより、行くってどこへよ」


「あれ? 言ってなかったか? 俺は西公にあるギルドを目指してるんだよ。俺としては、雷刃に置いてかれたくないから早めに着きたいんだけど」


「初耳よ! ……はぁ、いつ出発するかは、あんたに任せるわ」


 言ってなかったらしい。となると、ルナがいいって言うならもう出発するかな。俺はもう十分満喫したし。 


「…………右に同じ。……王都にあまり思い入れはない」


 「お前はいいのか?」的な視線を向けるとルナも頷きながらそう答えてくれた。


「それじゃあもう行くか!」


 てなわけで、割と呆気なく王都を出ることになった。


♦︎♦︎♦︎


 さてさて、そこから先はイナとの喧嘩はあったものの特になにも問題はなく旅は進んだ。


「暇ねー。何か事件的なことは起きないかしら」


 イナがそうぼやくが、あまりフラグになることを言わんで欲しいんだけどな……


「物騒なこと言うんじゃねえよ。そうポンポン起きねえから事件なんだよ。……暇なのは確かだけど」


「そろそろ日が暮れるわね。あっ! みてみて! 村が見えてきたわよ!」


 イナが嬉しそうに指差す方向には、お世辞にも大きいとは言えないが確かに村があった。


「きゃあぁぁぁぁぁ!!!」


 叫び声!? 俺が咄嗟に走り出すとイナとルナも走って着いてきた。


 そこでは5、6匹の緑色の人型の何かが家を荒らしたり、人をさらったりと混沌とした状況が繰り広げられていた。


「何だあれ!?」


「ゴブリンだ! ゴブリンが出たぞぉぉ!!」


 ゴブリン? 何だそりゃ? ……ってまさか!


「なあなあ! あれが魔物ってやつか!?」


「そうだよ! 最下位の魔物のゴブリンでも小さな村に集団で来られたらひとたまりもない! って、あんた何でこんなテンション高いだよ! 早く逃げないとやられるぞ!!」


 その辺の逃げ遅れたおっさんに聞いてみると、案外あっさりと答えてくれた。


「だって魔物なんて初めてみたからさー!」


 魔獣は鬼ヶ島で何度か見たことがあるけど、魔物を見るのは初めてだ。なるほどこんな感じなのか。思ってたより生々しいな。


「っと、危ないセーフ!」


 もう少しでおっさんの頭が見るも無惨な形にひしゃげるとこだったぜ。てか、このゴブリンの棍棒めっちゃ硬いな。刃で受け止めても切れないとか。


「イナ! ルナ! やるぞ! 元を辿れば多分イナのフラグが原因なんだから!」


「わ、分かってるわよ!」


 ゴブリンの数は全部で6体。ゴブリンがどのくらい強いのかは知らないが、さっきのイナの話じゃ、やってやれないこともないだろ。


 多分だがイナとルナは戦力として期待しない方がよさそうだ。くぅぅう! 格上対決以外で初めての戦闘イベント!


「やってやるぞぉぉ!!」




 そして2分後――


「無理無理無理無理無理無理無理!!!!!」


 俺は最弱と言われる部類の魔物、ゴブリンを相手に泣きさけびながら逃げ惑っていた。


 こんなにきついと思ってなかったし!! 生まれて初めて向けられる殺意。これでビビらないやつは命知らずかただの鈍感野郎だけだろう。


 今まで何とかなってきたのは一重に相手側に殺意がなかったからだ。けど今回は違う。殺意増し増し。何か、何かこの恐怖を忘れてさせてくれるきっかけさえあれば……


 ちょうどそう思った時目の端に見えた。いや、


 女の子が弟らしき男の子を抱えながら「殺さないで!」と叫んでいるところを。


……………………………………………………

To be continued





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