最高の錬金術に係わる15のモノ達‼
@jyumaa
序章~海の男バルタノ~
第1話 初めましてと久しぶり
少女は、身体を服ごと傷めつけられたかのようなボロボロの服を着た小学生高学年程の身長で、少し濃い赤色の髪のミドルに猫耳が付いている。そして、額に宝石のような石を3つそれぞれ赤、緑、黄色のものが埋め込んでいる。
獣人族の少女が飛び込んで抱き着く、大好きな親に飛びつくかのように。
「ガバッッ」
少女が抱き着くと、硬い腹筋と少女の顔がぶつかった音がした。
抱き着かれたのはやや大柄の青年。青と灰色の丁度中間のような髪色で、ツーブロックの、見た目は爽やかでまた、男前にも見える。そんな風貌だ。
「うわああああああんんんん!!!!!!バルタノ!ぐすっ......ぐすっ........会いたかった!!絶対会えるって分かってたのに泣いちゃったよおお!!!私も好きだよ!!!バルタノ!」
大泣きをして、青年の腹の筋肉に顔を埋めて泣く。
カモメが飛んでいて、太陽が照り付ける。
地平線まで広がる海の潮風が二人を祝福するようだった。
「えっと.....すみません。バルタノは僕で間違いないですが、名前ごと人を間違えてると思います。」
青年は困惑する。
それもそのはず、彼は街でちょっぴり有名なだけのただの船大工なのである。
ここは、海と山に囲まれた街、ヴィトレール。
そこの海沿いに住む、両親の営む船大工を手伝っているバルタノ・ツォノストレイ。
今日もいつもと変わらず、船大工として漁師に頼まれた船を修理している最中だった。
だが、今日は少女が抱き着いてきた。
名も知らない、見たこともない少女。
それどころか平和なヴィトレールに、獣人の少女がいること自体が不思議なのだ。
獣人はこことは別の大陸から無理矢理連れてきた人種で、戦争に使われたり、奴隷として扱われた過去があり、今も人種差別を受けている事がある。
だがそんな獣人の過去とヴィトレールは無縁であり、獣人は移住して来たごく少数くらいしかこの街にはいない。
そして、バルタノの一言で互いに気まずい空気が流れている。
少女はバルタノを見上げて涙ぐんだまま黙っている。
(ここは、男である僕から話を切り出さなければ。)
バルタノはそう思い、少女の抱き着いた両腕を掴み、少女を自分からはがして視線を合わせるためにしゃがんでから話す。
「君は迷子なのかい?もし迷子なら丁度近くにギルドがある。あそこで母親の捜索依頼を出してあげよう。迷子の捜索ぐらいならそんなに高く付かない筈だ。僕が払ってあげるよ。」
「迷子じゃない!私は貴方に..会いに...救いに来たのよ!!」
(会いに来た?救いに来た!!?)
少女の言動は余計にバルタノを混乱させていく。
(どういうことだ?救いに来た....?まあまず、この街に姿も名前も僕に似ている人は流石にいないだろうから、迷子ではなく僕に会いに来たのは分かるが....救いに来た?船の修理から?これから僕が溺れるとでも言うのか?いや、海に落ちても直ぐに岸まで泳いでいけるし....)
「えっと......すまない。君が誰かも分からないし、何をしたいのか見当もつかない。取り合えず名前を教えてくれないか?」
「教えれない.....もしかしたら....危ないから。」
「危ない....!?何故!?」
「それも言えない。」
話せば話すほど謎が増えていく。
「じゃあ何をしに来たんだい?」
バルタノは取り合えず話を進める。
「だから、貴方を救いに!!.......あれ?ちょっと待って?マリッサって人知ってる?」
何も理解していないバルタノに怒りそうになった途端に、少女は何かを理解した様子だった。
「すまない、知らない。」
少女は何かに感づいた様子を取り、自分の前髪を引っ張って、自分の視野に入れると
「赤い.....んっ!?....あっ!!そういう事か!なるほど!分かったよバルタノ!貴方がマリッサにまだ会ってないんだよ!」
少女は全てを悟った様子だが、一向にバルタノは何も分からない。
「うん...会ってない。というか本当に訳が分からない。責めて僕にどうして欲しいのか伝えてくれ。」
「んー、じゃあ歴史書は好き?」
「いや」
「世界一の幸せ者になりたいとかないの?」
「そんな漠然とした志を持ったこともないし、これから持つつもりもない。」
「錬金術師に会う動機とかは?」
「錬金術師?まあ特殊な工具をオーダーメイドで依頼する事が稀に...でも基本的にはない。」
「ん?まあいいや。取り合えずギルドにいるマリッサの所に来て!」
少女はギルドに向かって歩き始める。
「どういうことだ....?まあ付いていけば分かるか。おーい父さん!」
バルタノは角材を担いで運ぶ父親に声を掛ける。
「ああ、あんまりギルドに長居するなよ!」
先ほどの会話を聞いていたのか、バルタノの父親は理解してくれた。
魔王や勇者が出て来るような話はもうおとぎ話として語られるようになったこの時代。
次第に強力な魔術や剣術などは廃れていき、争い事は人間同士で起こす物になっていった。
そして最近は錬金術というものが盛んになっていて、
何と言っても、生活を豊かなものにする事が出来る。
錬金術で作った道具によって、平均寿命は指数関数的に伸び、
それを中心とした新しい商業がどんどん栄えていった。
その商業施設の一つにギルドがある。
一時期、魔物と呼ばれる凶暴な動物が大量発生した時期に政府が作ったものである。困っている民間人がお金を払って依頼しそれを退治する事によって、狩人や旅人などがそのお金を貰うという仕組みだ。
しかし、平和になった後は魔物が殆ど出なくなりギルドは名残で残ったもののもう少しで廃業といった状態になってしまった。
そこに錬金術というものが現れてそれを中心にした商業に切り替えた瞬間ギルドは大盛況となった。
そして、その錬金術を極め、仕事としているのが錬金術師である。
しかし、そんな時代の流れなど関係は無く、船大工は船大工である。
今も昔も殆ど変わらない。
バルタノは少女の横を歩き、
「マリッサとはどんな人なんだい?」
質問する。
「この街で恐らく一番優秀な錬金術師。そして、この街で一番性悪。性悪の方は保証するよ。」
「保証されるほどの性悪って、中々だな...」
(そういえば、服装はボロボロだがこの街のものでも可笑しくはないだろうが、額に埋め込まれている3つの石は何だ?何かしらの文化か宗教か....)
バルタノは不思議な少女を見つめて考えていた。
「まあね....それより、ギルドに着いたよ!」
ギルドはカウンターが入口に入ってすぐを左に設置されていて、飲み物などの提供をついでにやっている。
木製で作られた机と椅子があり、6人程の客がいて、半分くらい空いている。
天井には木製のシーリングファンが三つ。
観葉植物もあり、中堅のホテルのようなオシャレな雰囲気が漂っている。
そのまま真っ直ぐ進むと二階に繋がる階段があり、
二階は壁沿いに続く4、5個程の部屋と廊下のみで、落ちないように手すりが付いており下の階層から見上げる事が出来る。
同様に三階があり、一階から見上げて三階まで目視する事が出来る。
バルタノはこのギルドに2,3度程来た事がある。
だが、基本的に用はない所だ。
「マリッサはここの三階にいるの!」
「マリッサさんに何か用なんですか!?」
受付のお姉さんが突然驚いた様子で声を掛けてきた。
「錬金術師に会うには何か許可を取らないといけないんですか?すみません、ギルドに関するルールを知らないもので。」
バルタノは礼儀正しくお姉さんに半ば謝りの意味を込めたお辞儀をする。
「いえ、そんな事は無いんですが...マリッサさんは中々変な人で、大した用事でなければ関わらない方がいいですよ?もし依頼や伝言であれば私を通してやり取りが出来ますので。」
「..っと言っていますがお嬢さん。マリッサさんに会う必要があるんですか?」
「うん。」
少女は軽く頷いた。
「だそうです。僕も少し気になる事があるので、この子について行きます。」
「何かあったら直ぐに逃げて下さいね。あと渡された飲み物食べ物も口にしないように!」
「はい、分かりました。」
(凄い警戒のされようだ.....どれだけ危険な人物なんだ.....)
二人は階段を上り、マリッサの部屋の前に行く。
「コンコンコン....ガチャ」
三回ノックをしてドアを開ける。
「失礼します。」
部屋の中にはフラスコをはじめとする様々な器具が部屋を埋め尽くしている。
そして真正面には、30代の紫色の髪をした、不敵な笑みを浮かべる女性が椅子に座っていた。
「おっ!私に会いに来たっていう事は、死にに来たのかい?」
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