第96話 ケモミミ百合掌編を書いてみよう その4 『耳当て』

 最近、めっきり寒くなってきた。長く外に居ると、耳の先が冷え切っている。自前の毛並みでは、もう寒さに対抗できそうにない。そろそろ耳当てが必要だ。

 そんなことを思いながら帰路に着いていると、ふと家で待っているであろうフミのことを思い出す。私でさえ耳を冷やしているのだから、より耳の長い彼女はなおさらだろう。去年使っていたものを引っ張り出してくるのも良いが、これを機に新しい耳当てを買うのもいいかもしれない。私は寄り道をすることに決めた。


 仕事用の鞄と服屋の紙袋を一緒に左手に持って、家の鍵を開ける。紙袋には新品のイヤーネット型の耳当てが二つ入っている。私用に灰色のをひとつ、フミ用に深い青色のをひとつ買ったのだ。彼女の趣味に合わせたつもりだったが、気に入ってくれるかはわからない。私はすこしドキドキしながら、扉を開けた。

「ただいま」

「カリン、おかえり~!」

 奥のリビングからフミの元気な声が聞こえてくる。この声を聴くと仕事終わりで疲れている私まで元気になってくる。防寒着を玄関のクローゼットに入れ、脱衣所でスーツを着替えて、リビングに急ぐ。

「今日は遅かったね。残業?」

 リビングにはこたつでぬくぬくとしているフミが居た。ぱたぱたと栗色の尻尾が揺れているのが愛らしい。私はこたつに入り、紙袋から耳当てを出して言った。

「これ買ってたから。フミにプレゼント」

 私が青い耳当てを手渡そうとすると、フミは顔を曇らせた」

「あ、しまった」

「青は嫌だった?」

「そう言うことじゃなくて……」

 フミがタンスの中をゴソゴソとやると、中から二組の耳当てが出てきた。灰色と青。柄からして、去年のやつではない。

「私も今日買っちゃった。プレゼント、被っちゃったね」

 フミは灰色のを私に手渡してくれた。右耳用と左耳用が別れているセパレートタイプだ。

「色も同じだ」

「ほんとに。でも、形は違うから……今年の冬は二種類使いわけできるね」

 フミはそう言って笑った。私も釣られて笑った。今年の冬も耳を暖かくして暮らせそうで本当に良かった。私は幸せで胸がいっぱいになった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る