第90話 初心に帰ってサイバーパンク掌編を書いてみよう その24 『AIMS』

 俺は蚊が嫌いだ。蚊に刺されが他人より腫れる体質らしく、刺されるたびに苦悶の日々を送ってきた。俺が全身義体にした理由の一つは、もう二度と蚊に刺されないようにするためだった。だがしかし、それでは足りない。俺が蚊に刺されなくても、世界のどこかでは俺と同じ苦しみに遭っている人間がいるはずなのだ。

 俺は独自に研究を重ね、対虫メーザーシステムAnti-Insect Maser Systemを開発した。AIMSは画像/レーダー複合認識で空中を飛ぶ虫を検知し、メーザーを照射して虫を焼き殺す小型装置である。開発初期は虫の焼殺にレーザーを使用していたが、誤射での失明の可能性があるので途中でメーザーに代えた。パルス照射式のメーザーなので、もし人間に誤射してもごく軽い火傷で済む。

 会社を立ち上げ、AIMSを売り始めると、これがなかなかに好評だった。殺虫剤を使わないので、環境負荷が比較的軽く、電力供給さえあれば、壊れない限り使い続けられる点などが魅力的だったようだ。

 順調に売り上げを伸ばしていったある日、突如としてAIMSがバカ売れし始めた。聞くところによると、AIMSが蝿型偵察ドローンなども虫のついでに撃墜してくれることが明らかになり、機密保持が重要な会社や政府機関が次々に導入を始めたのだという。様々な企業や機関から、カスタム品のオーダーが入り、俺の会社は嬉しい悲鳴を上げることになった。

 どういう想定であろうと、AIMSか売れれば売れるほど、蚊はより多く焼殺され、そのぶん不幸な蚊に刺され人は少なくなることだろう。俺は使命を果たすために、いまもAIMSの改良・販路の拡大に励んでいる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る