第73話 登場人物が一人の掌編を書いてみよう その2 『ごみ箱』

 いつものように賞金首をボコったあと、なにか使えるネタはないかと、そいつの視聴覚記録を洗っていると、意外な映像が出てきた。懸賞金も低いし、大したサイバネも付けていないし、しょうもないチンピラだと思っていたそいつは、裏社会ではそこそこ有名な傭兵団の一員だったようで、いくつもの襲撃に参加していた。その中には、企業の現金輸送車や要人を狙ったものすらあった。

 俺が注目したのは、オミ・バイオテック社の高級社員を狙った襲撃だった。追跡機トラッカーを無効化し社員を殺害、社員が持っていたアタッシュケースを奪取し死体を近場のゴミ箱に捨てる。なかなかいい手際だ。

 あまり社外に知られていないことだが、オミ・バイオテック社の高級社員は自社の試作品有機チップを使っていることが多い。傭兵団は高級社員の首筋のスロットを埋めていたチップにはノータッチだった。

 この襲撃が行われたのは今日の昼頃。まだ、ゴミ回収車は来ていないだろう。運が良ければ、オミ・バイオテック社の試作品有機チップをタダで手に入れることができる。売ればそこそこの金になるはずだ。俺は賞金首を市警に引き渡してから、オミ・バイオテック社員が捨てられたゴミ箱に向かった。


「うーわ。ひでえや」

 ゴミ箱を開いた瞬間、人の腐った臭いが辺りに広がった。無人中華料理屋の排気口下にあったゴミ箱は、ほどほどに蒸されていたようで、死体の腐敗が進んでいた。俺は悪習に顔を歪めながら、社員の死体に手を伸ばした。首筋のスロットに指をやり、すこし押すと、チップが飛び出してきた。

 チップを確認すると、確かに見たことがないチップだった。軽く画像検索にかけてみても、同じものは出てこない。こいつは当たりかもしれない。

 俺はチップまで腐っていないことを祈りつつ、チップをチップホルダーに慎重に収めて、懐に仕舞った。

 腐った死体を見つけるであろうゴミ回収車のオペレーターは気の毒だが、俺はそこまでケアするほどの善人ではない。

 ゴミ箱の蓋を締めて、俺はその場を去った。

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