第60話 初心に帰ってサイバーパンク掌編を書いてみよう その17 『ローポリ』

 俺が行きつけの居酒屋『呑来来ドンクライ』で、ヤキトリをツマミにレッドアイを一杯ひっかけていると、一人の男が入店してきた。俺はそいつを見て目を丸くした。常連のトビーやイン、マスターのジローでさえも息を飲んでいた。

 この店は位置情報徹底的に欺瞞した隠れ家的名店で、そのせいか普段から一癖も二癖もあるやつが来る。全身の皮膚を透明なポリマーで置換した人体模型野郎とか、頭が犬みたいな顔をした重サイボーグとか、胸部にハト時計を埋め込んだ女とか。奇妙なサイバネを、一日一度は見ることができる。だが、今日来た奴は特別だった。

 男はローポリで、低解像度だった。男の義体は、かくかくした身体に、薄っぺらなテクスチャが貼ってあるかのようにしか見えない。まさにオールドファッション・ゲームのキャラクターにそっくりだった。

 企業のカタログに載ってるような凡百のサイバネではない。だまし絵のような男の身体に、俺はただ見惚れるしかなかった。オリジナリティのある狂人だ。尊敬できる。

「い、いらっしゃい。好きな席にどうぞ」

 マスターがそういうと、ローポリ男はカウンター席に座った。

「生、ある?」

 男の声は、意外と普通の声だった。ひび割れた合成音声とかではないようだ。マスターは頷いた。

「あるよ」

「じゃあ、中ジョッキで二つ」

 ローポリ男は生中を二つ頼んだ。二つ! どういう頼み方なのだろうか。俺はわくわくしながら、男がどう生中二つを処理するのか待っていた。一つを一気飲みして、もう一つはじっくり飲むとか? それとも、二つ同時に……?

 そんなことを考えていると、また客が入ってきた。今度は女だった。俺は、また目を丸くした。女もローポリで、低解像度だった。

 ローポリ男はローポリ女をちらりと見て、マスターに目配せした。連れ合いだ、ということなのだろう。マスターは目を丸くしながら頷いた。

 二人は生中で乾杯して、飲み始めた。

 俺は類は友を呼ぶとはこのことかと思いながら、ぬるくなったレッドアイを飲み干した。

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