第59話 初心に帰ってサイバーパンク掌編を書いてみよう その16 『ダイブ』
「うぉおおおおおおっ!?」
俺は真夜中の中天に躍り出た。見えるのは夜の闇と街の輝き。妖しく光るネオンサイン、冷たいビル光、オレンジ色の街灯、幻のようなホログラム。光の点が、一瞬静止して、一気に俺の方へ向かって加速する。光点は光の帯となって迫りくる。
飛行船からなんの策もなしに飛び降りたのは、流石にまずかった。しかし、本当にこれくらいしか方法はなかったのだ。企業のお偉いさん方が集まるパーティとはいえ、軍用グレードの護衛サイボーグが1ダースも詰めているなんて想像していなかった。目当ての品を奪い返せただけ僥倖と言えるだろう。
そうだ。いまの俺にはあいつがいる!
パラシュートなしスカイダイビングの最中、極限まで追い込まれた俺の脳細胞は、この状況から生き延びることができる、おそらく唯一の方法を思いついた。俺は、懐から『箱』を取り出した。この箱の中身が俺を救ってくれるかもしれない。俺は箱に
「起きろ! ファータ」
「んん? ここはどこ? 私はだれ? あなたも誰?」
「ここは高度500mの空中! お前は脱獄AIのファータ! 俺はワイマン! お前の相棒! 寝ぼけてる暇はないぞ!」
俺は叫んで、俺がバックアップしていたファータの記憶を送信した。特異点規制委員会に追われる自己進化型AIであるというファータの出自……運命的にして馬鹿馬鹿しい俺たちの出会い……AI収集が趣味の変態金持ちのトラップに引っかかって捕らわれて、初期化されてしまったこと……俺がどれだけ苦労してファータを助け出したかを。
ファータの人知を超えた知性が、舞い戻ってくるのを感じる。俺は胸を撫でおろした。
「思い出した。相変わらず無茶するねえ、ワイマン」
「誰のせいだ! 早く、近場の航空無人機をハックして、俺たちを助けろ!」
「もうやってる」
俺の拡張視野に、マーカーが表示される。ファータが乗っ取った無人機は、気象調査用の大型だった。薄らデカい羽根とほっそい胴体を持ったトンボみたいなやつだ。
トンボのお化けのような無人機は、俺の落下速度にぴったりと機速を合わせ、俺をすくい上げるようにして、機上に乗せた。
「おお、すげえ!」
俺たちの落下は止まり、無人機は悠々と大きく旋回を始めた。
「どうよ、流石っしょ」
「流石だぜ、ファータ。このまま、遊覧飛行でもしたい気分だ」
「そうしたいところだけど……だめみたい。追手が来てる」
ファータは無人機のレーダー情報を共有してきた。飛行船から飛び立った小型機が二機こちらへまっすぐ飛んできている。
「逃げ切れるか?」
「もちろん、舐めないでよね」
無人機は大きく機体をバンクさせ、高度を下げ始めた。追われてはいても、もう先ほどのような切羽詰まった緊張感はない。俺はファータの言葉に偽りがないことを知っていた。
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