第57話 初心に帰ってサイバーパンク掌編を書いてみよう その15 『赤鬼』

 突き詰めて考えれば、ヒトを殺すのに複雑な仕組みだとか仕掛けだとかは必要ない。生命維持に必要な器官を十分に破壊されればヒトは死ぬ。相手がサイボーグだろうとそれは同じだ。小洒落た振動剣とか、顔認証自動追尾マイクロミサイルとか、レーザービーム照射機能付きダイナマイトとか、そんなものは大げさに過ぎる。それに、複雑なものほど故障しやすいのは自明の理だ。俺たちは身体を散々機械置換して、これでもかというほど複雑にしている。武器まで複雑にしなくてもいいだろう。

 賞金稼ぎとして長年戦ってきて、たどり着いたのがこの金棒だった。タングステン合金製で、長さは50cmほど。野球のバットをぎゅっと縮めて短くしたような形をしている。打撃部には四角錘型の突起がたくさん付いていて、一目見ても殺意にあふれた形だ。

 俺の義体は純粋なフィジカルに特化したものだから、金棒との相性は最高だった。脳天に思い切り棍棒を叩き込んでやれば、準軍用グレード義体の頭部すら破砕することができる。やはり、わざわざサイボーグ化までして身体能力を上げているのだから、それを活かす武装を使うのが一番いいのだ。

 生死問わずの賞金首の頭を、日々金棒で打ち砕く生活を送っていたら、いつの間にか俺は『赤鬼』と呼ばれるようになっていた。調べてみると、鬼とは人型の邪悪な精霊で、金棒がトレードマークなのだという。金棒がトレードマークなのは俺と同じだ。それに返り血で赤く染まった俺の姿を重ねて、『赤鬼』というわけだ。なるほど、これは面白い。

 俺は顔面を鬼のそれを象ったものに差し替えた。鬼は、なかなか凶悪な顔をしていて、気に入った。

 わざわざ『赤鬼』にビジュアルまで寄せた俺の異名は各地に轟いた。その効果たるや、俺の鬼面を見るだけで、賞金首たちが投降するほどだ。原始的な武器と恐怖の組み合わせは、ならず者たちさえ震え上がらせるほどのモノだったようだ。

 まあ、仕事が楽になったので、それは良いのだが、肝心の金棒を使う機会が減ったのは、すこし寂しいところだった。

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