第38話 ケモミミ百合掌編を書いてみよう その3 『栗拾い』
しつこい残暑がようやく去って、いよいよ秋がやってきた。夏の入道雲はどこへやら。すかんと晴れた秋空は、青く澄んで、とても高く見える。村の端にある私の家からは、徐々に秋色に染まりつつある森がよく見えた。
思わぬ朝の寒さに薄い毛布をかぶりながら、書斎で本を読んでいると、トントンと玄関をノックする音が聞こえた。玄関まで行ってドアを開けると、そこには秋服を着たカヤが居た。彼女の手には大きな藤かごがある。
「おはようございます。魔女さん!」
カヤは屈託のない笑顔を浮かべ、薄い茶の毛並みの耳をまっすぐ立てながら言った。
「おはよう。カヤ」
元気のいいカヤの挨拶に、私も釣られて笑顔になる。
「今日はなんの用かな?」
「あの、魔女さんのお庭の栗、拾っても良いですか?」
カヤは藤かごと彼女の斜め後ろに生えた栗の木を交互に見ながら言った。栗の木の下には昨日の強風で落ちたのか、イガグリがたくさん転がっている。
「もちろん。いいよ」
あの栗の木はただ私の家の近くに生えているというだけで、私の持ち物でも何でもないのだが、カヤは毎年こうやって律儀に許可を取りに来るのだった。
「また、お母さんに栗の甘煮を作って貰うのかな?」
「いえ、今年は私がお母さんにつくり方を教わって、自分で作ってみようと思うんです!」
「へえ! それはすごいね。カヤも成長したなあ」
私は素直に感心して、深く頷いた。ついこないだまでよちよち歩きの赤ん坊だと思っていたら、いつの間にか自分で料理をするまでになっていたなんて。他人の子どもの成長は恐ろしく早いものだ。私は思わず、カヤの頭を撫でていた。カヤの毛並みはパサついた私のそれとは違って、滑らかで触り心地が良い。
「うん、カヤはとても親孝行だね」
「へへへ……そう、ですかね!」
カヤは自慢げに微笑んだ。撫でられやすいように、耳をぺたんと伏せているのも愛らしい。私が撫でるフリをして、頭の上で手を止めると。カヤはちらりと物足りなさげな視線を送ってくる。私はそれを見て笑って、わしわしと強めに撫でた。
「むふふふふっ」
すると、カヤは満足そうな顔をして笑った。私たちはそうしてひとしきりじゃれたあと、栗拾いに移った。
木から落ちたイガグリは、まだすこし青さを残しているものもある。だが、イガ自体は弾けていて、実も十分熟れていそうだ。両足でイガの割れ目を両脇を踏んで、イガを剥き、中身を取り出す。
別に、私も栗拾いに参加する意味は特にないのだが、どうせ暇なので、カヤの手伝いをしているというわけだ。
四半刻ほどで、カヤの藤かごがいっぱいになった。
「じゃ、お母さんにもよろしく」
「はい、また今度、甘煮を持ってきますね」
「うん。今年はカヤのだから一段と楽しみにしてる」
「えへへ……緊張しちゃいますね。では、また!」
カヤは大きく手を振りながら、自分の家へ帰っていった。私は手を振り返して見送った。
今年の秋も楽しみがたくさんある。幸せを噛みしめながら、私は玄関のドアを閉めた。
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