第21話 サイバーパンク百合掌編を書いてみよう 『直結』
分別ある大人は、絶対に他人と直結なんかしたりしない。相手がどんな
私たちは互いに互いをもっとよく知りたかった。表層の……肉体や言葉、
だから、私たちは直結した。電気屋に行って、
最初に感じたのはめまいだった。映像とも心象ともつかないものが、私の頭のナカに次々と吹き込んできて、渦を巻いた。感情、思想、印象、光景。極彩色の嵐に私はただ茫然とした。愛が硬いコンクリートの円柱となって、横殴りに吹き付けてくる。欲望が巨大な眼球となって、空に浮かび、じっとりと視線を照り付けてくる。彼女の希望と絶望と渇望とが、細く数多の針となって、私の眼球から脳みそに突き刺さった。
私は彼女を知った。知り過ぎた。私は彼女を受け止めきれなかった。呻いて。叫んで。泣いて。私はやっと失調した身体感覚を取り戻した。震える手で、
そして、私は吐いた。ベッドを無様に転がり落ちて、床に向かって吐き続けた。
「ごめんなさい」
私は吐きながら謝り続けた。なにについて誤っているのかも、もはやわからなかった。とにかく、自分が情けなくて、申し訳なくて、惨めだった。彼女は、大丈夫だよと言って、私の背中を撫でてくれた。それがなんだかおぞましくて、おぞましいと感じた自分が許せなくて、また泣いた。
それから、私たちは疎遠になった。私のせいだった。彼女は私たちの関係を修復しようと努力してくれていた。でも、私がダメだったのだ。
関係が自然消滅してから5年が経ち、私たちは再会した。なんとなく立ち寄ったカフェで彼女を見つけた時は、目玉が飛び出るかと思った。話してみると、彼女は疑似体験のクリエイターになっていた。昔話で会話が弾み、何度か一緒に食事をしていたら、いつの間にか昔のような関係に戻っていた。
私たちはもう分別のない子どもではなかった、二人ともそこそこ分別ある大人になっていた。私も彼女も、関係性を保つために必要な距離感というものを、もうほどほどにわきまえている。愛している相手のすべてを知る必要はない。互いに、侵さざる領域があったほうが良いのだと、私は知った。昔の私たちは納得しないだろうが。
まあ、そんな生活も、常に順風満帆というわけにはいかない。ときには、私たちの家の中にも嵐が吹き荒れることもある。だがもうその嵐は、私たちのなにもかもを破壊したりしない。ひび割れても、繕うことができる。私たちはそういう関係になっていて、けっこう幸せだった。
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