第17話 サイバーパンク世界の日常を描写してみよう 『夏の朝』

 朝起きると、まだ暑かった。昨晩の熱帯夜の熱と湿気がそのまま残っているようで、どうにも暑苦しい。肌がじっとりと汗ばんでいて、不快だ。

 昨晩は窓を開け放して寝た。おかげで、あれを買えこれを買えと広告立体映像がわめきたてる声が一晩中聞こえてきた。俺の部屋の冷房は、今年の猛暑に耐え兼ねて壊れてしまっていた。修理を頼んだが、予約が殺到しているそうで、すぐには直してもらえなかった。俺の冷房が直るのは、秋の終わりごろだ。

 俺は窓から外を見た。高架に覆われた川が、橋桁と超高層建造物の影の間隙から差し込むわずかな朝日を照り返して、ちらちらと煌めいている。川には柳の葉のような形をした舟が一艘浮かんでいる。舟の上には二人の上裸の男たちがいた。引き締まった身体には、なにやらびっちりとタトゥーが刻まれている。男たちは濁った水面に長い棒を繰り返し突き刺して、なにかをさらっていた。

 拡張視野にメールボックスを展開するも、連絡は一件もなし。俺はあくびをしながら、脛の辺りを掻いた。一昨日、寝ている間にやられた虫刺されの跡が、まだ痒い。幸いにして、今日は蚊に刺されなかった。闇市で買ってきた怪しげな高周波虫よけ装置が効いたらしい。

 喉が渇いている。腹も減っている。冷蔵庫を漁ってみたが、飲み食いできるものはなかった。なぜか、なくしたと思っていた大容量記憶チップが孤独に冷えていた。俺は近場の銭湯に行くことを決意した。朝風呂を浴びるついでに、なにか食おう。

 汗のしみついたタンクトップと下着を脱ぎ捨てて、服を着る。窓を閉めてから、俺は玄関を出た。

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