デッドコピーたこはちの習作

デッドコピーたこはち

第1話 まずは普通にサイバーパンク掌編を書いてみよう 『暗がり』

 この街は数百年前から一度も眠ったことがない。みっちりと建った二百メートル級の超高層建築物群が形作る渓谷には、夜でも昼間と変わらぬ光が満ち溢れている。数多のオフィスビルの窓からこぼれる室内灯の白い光、天突く建造物に鈴なりに実る電飾看板、古式ゆかしいネオンサイン、雲霞のごときドローンの群れ、酒を呑め新しいサイバネを買えとがなり立てる広告立体映像アド・ホロ。だが、電飾と立体映像ホログラムでけばけばしく彩られた不眠症都市にも、光の届かない場所はある。超高層建築物の間隙。コンクリート壁とコンクリート壁に挟まれた裏路地には、まともに光は差し込まない。

 常世の小道に、二つの足跡が響いている。一つは俺の、一つは俺の後ろから響いてくる。コツ、コツ、コツ。銀クロームに光るアサルト安全靴の足先が、アスファルトを蹴る音がする。俺の額に汗が滲む。歩みを早める。足音がついてくる。不意に、低音の男の声が後ろから俺を突き刺す。

「おい、止まれ」

 男の言葉の通りに、俺は歩みを止め、振り返った。男は二メートル近い巨躯で、銃を持っていた。銃身の短いコンパクト・ショットガンだ。ポンプアクション式で、総弾数は4発のやつ。身体の大きい男が持っていると、なんだか大きめの拳銃に見えてくる。ショットガンは俺の顔面にまっすぐ向いて、銃口の底知れぬ暗さを見せつけていた。

「手を挙げろ――」

 男が言い終える前に、俺は手を挙げた。俺の前腕がぱっくり割れて、本来尺骨のあるべき場所から黒い銃身が飛び出してくる。俺は銃口を男の額に向け、心の中で引き金を引いた。

 強い反動を感じる。男の頭が、へたくそがやるスイカ割りのスイカみたいに炸裂して、赤いものをあたりに飛び散らせた。男の脳だか皮膚だかが俺の頬まで飛んできて、へばりつく。

「……くそっ」

 俺は舌打ちをした。組み込み式の武器腕に内蔵するための特殊弾頭は、べらぼうに高くてチンピラひとりの命には到底贖わない。大損だった。

 まあ、だが致し方ない。そういう日もある。今日に限って他の武器を携帯していなかったことを悔いながら、俺は小道を去った。

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