第7話
「おはようございます。エイダン様」
扉をノックして、声をかける。
「入りますね」
扉を開くと、エイダン様が壁に張り付いて窓の外の様子を窺っていた。
「アリス……っ、身を屈めろっ! 今日はなんだか嫌な予感がしやがる……っ! 外に得体の知れない奴が潜んでいる気がするぜぇっ!」
毎朝恒例の朝の発作だ。今日は「外が危ない」バージョンだな。
発作を治めて食堂に連れて行くのが私の日課だ。
「エイダン様っ……! あれをご覧になってくださいっ」
「何っ……!?」
私が駆け寄って指さした窓の外、木の枝に一羽のカラスがとまっている。
「あ、あいつはっ……」
「あれは、黄泉の国の魔導士の使い魔です……っ、こちらを見張っています!」
「やはりか……」
「おそらく、昨日は風が強かったから、強風に紛れて公爵家の結界内に入り込んだのでしょう」
「くっ、狡猾なっ……」
エイダン様が悔しげに歯を食いしばる。
「エイダン様、ここは私にお任せください」
「しかし……」
「私もエイダン様の元でかなりの力を付けました。使い魔などに負けはしません。私を信じて、先に食堂へ行っていてください」
「アリス……わかった。お前を信じよう。お前はこの漆黒の翼の愛弟子だからな!」
いろいろとアドリブの多い会話を交わし、エイダン様に先に食堂へ行くようにお願いする。
「気をつけろよっ」
「はい」
エイダン様は無事に部屋を出ていった。
さてと。
「もういいですよ」
「お疲れさまです、アリス様」
スタンバイしていたメイド達が部屋に入ってきて寝具を直したり服を片づけたりし始める。
私は一息おいてから部屋を出て食堂へ向かった。
公爵家で暮らし始めてから三ヶ月が経った。
色々と試してみてわかったのだが、エイダン様の病は無理矢理抑えつけようとすると余計に酷くなるということだ。
公爵家の人々もこれまでに荒療治を試したことがない訳ではないらしい。けれど、言動を抑えつけると、次の発作がより重症になる。
話を合わせてやった方が、何事もスムーズに進むしエイダン様の調子も良くなる。
そのため、私はいつの間にか「漆黒の翼の愛弟子アリス・クリーアス・メロディアン・ソレートン」となっている。
本名はアリス・ソレートだ。
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