第7話
街へ出てきたものの、無計画だったため目的地もなく人混みの中を歩くだけだ。
(そうだ。とりあえず、花屋へ……)
花屋の店先で、色とりどりの花を前にしてケイオスはニコルに尋ねた。
「どれがいい?」
「え?」
ニコルは目を瞬いた。
「キャロライン様に贈る花ですか?」
「なんでそうなる!?」
ニコルの突拍子もない言葉に、ケイオスは思わず声を荒らげた。すると、ニコルはきょとんとした顔になる。
「去年もキャロライン様に贈ったのでは?」
「贈ってねぇよ!」
どうしてそんな誤解をしているのだと、ケイオスは頭を掻きむしりたくなった。ニコルははっきりと困惑を顔に浮かべている。
「でも、キャロライン様に同じ花をあげたって」
「あれは……見たことない花だったから、一輪だけ別に買って生徒会室の机に飾ってもらっただけだ」
去年のことを思い出して、ケイオスは溜め息を吐いた。
「そうなんですか……」
(どうしよう。皆に残り物もらったって言っちゃった……訂正しておかないと)
(まさか、去年、同じ花をキャロライン様に贈ったと思っていて、今年も同じ花を贈られるのが嫌でいらないと言ったのか……はあ、なんだ。ただのやきもちで拗ねていただけか)
二人は内心でそんなことを考えていた。
「で、どれがいい」
ケイオスに促されて、断りきれずにニコルは花を選んだ。
「では、あのオレンジ色の花を」
「オレンジの花が好きなのか?」
「はい。気分が明るくなるので好きです」
花束を受け取って、ニコルはにっこりと笑った。
花も受け取ったし、ここで解散かと思っていたニコルだったが、ケイオスはその後もニコルを連れ歩き、歩き疲れるとカフェに立ち寄った。
「あの、キャロライン様のお側にいなくていいのですか?」
向かい合ってお茶をしながら、ニコルは婚約者に尋ねた。
「俺はいつもキャロライン様の側にいる訳じゃない。仕事が忙しい時だけだ」
「はあ……」
ケイオスの返事にはあまり納得できなかった。ニコルの印象だとケイオスは四六時中キャロラインの側にいる。
久々に二人で茶を飲んだが、何も話題がない。ニコルは居心地悪い空気を感じながら茶を飲んだ。
「このところ一人で街を歩いていると聞いたが、一人歩きは危ないからやめろ」
ややあって、ケイオスが最近のニコルの行動に口を入れてきた。
ニコルは目を見開いた。ケイオスがニコルの心配をするなんて初めてではないだろうか。
「大丈夫ですよ。人目の多い場所にしかいかないし、裏の道には近寄りませんので」
「それでも危ないだろうが。せめて侍女を連れ歩け」
「はあ……」
ニコルははっきりしない返事で誤魔化した。だって、ひとり歩きの方が気楽なのだ。
まあ、彼はニコルに興味がないので、今日の会話のこともすぐに忘れるだろう。
「そういえば、キャロライン様は最近隣国のお茶がお気に入りだとクラスの子が噂しておりました」
「ああ」
結局、キャロラインの話になってしまう。
(ケイオス様はキャロライン様の話題しか興味ないだろうけど、私はあまりキャロライン様のこと知らないからあまり話せないや)
(なんでそんなにキャロライン様の話ばかりなんだ……?)
ニコルは一生懸命にキャロラインの話題を探して、そんなニコルにケイオスは首を傾げた。
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