第6話



 生徒会室で仕事をしていると血相を変えた伯爵令息が飛び込んできた。


「ケイオス!!」

「な、なんだ?」

「お前!花は用意してあるだろうな!?」

「はあ?」


 ケイオスは眉をひそめた。花といったら本日の花祭りで婚約者に贈る花に決まっているが、


「用意していない」

「なんでだよ!?」


 あっさりと応えたケイオスに、伯爵令息は愕然として食ってかかる。


「婚約者が「花は用意しなくていい」って手紙を送ってきたから」


 伯爵令息は絶句すると、重い溜め息を吐いてケイオスの肩を掴んだ。


「お前、婚約を解消したいのか?」

「はあ?なんでそうなる」


 婚約解消なんて七面倒くさいことを誰がするかと、ケイオスは嫌そうに顔を歪めた。

 だが、伯爵令息は深刻な調子で続ける。


「いいか。よく聞け。お前の婚約者は今からたった一人で街へ繰り出そうとしている。花祭りのこの日に、花を持たずに一人でだ」


 それがどういうことかわかるか。と訊かれて、流石に言葉を失った。  花を持っていないということは、恋人も婚約者もいないと公言しているようなものだ。

 ニコルを知らない者はまだ婚約者のいない令嬢なのだと勘違いするし、ニコルを知る者は婚約者がいるのに何故ひとりで花を持たずに歩いているのかと困惑するだろう。

 ケイオスは「婚約者に花を贈らない最低な男」になる。


「な、なんでいらないなんて言ったんだ……?」

「うるさい。とにかく、今すぐニコル嬢の元へ行け。そして、二人で街へ行って花を買え」


 キャロラインからも「今すぐ行け」と目で命じられ、ケイオスは突き飛ばされる勢いで背中を押されて生徒会室から叩き出された。


 さしものケイオスも花祭りのこの日にニコルが一人で街を歩くのは見過ごせないので、言われた通りにニコルの元へ走った。


「ニコル!」

「え?」


 廊下にぼんやりと立っていたニコルがケイオスを見て眉をひそめた。


「ケイオス様、どうしました?」

「……行くぞ」

「え?」

「街に行くんだろ。一緒に行くぞ」


 戸惑いを浮かべるニコルの腕をとって、強引に連れ出した。



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