第3話
***
最初から何も期待しないことを決めると実に楽になった。
休みの日は婚約者をお茶会に誘ったり一緒に出かけたりしなければならないという常識を気にしなければ、自分でやりたいことをして時間を使える。ニコルはすっかりおひとり様に慣れてしまった。
休みの日にひとりで行動することに慣れると、学園生活でもひとりで過ごすことが苦ではなくなった。
不思議なことにニコルが開き直って堂々とひとりで行動するようになると、婚約者に見向きもされない令嬢とニコルを嘲笑っていた連中が皆一様に口を噤んだ。ニコルを見てひそひそと噂する令嬢もいなくなり、ニコルの周囲は静かになった。
理由はわからないが煩わしさがなくなったことをニコルは喜んだ。
そうして日々が過ぎていき、一年に一度の花祭りが近づいてきた。
花祭りは女性が婚約者や夫から花を贈られる日だ。なので、周りの令嬢は皆どんな花を贈られるか楽しみにしていた。
ニコルは去年のことを思い出した。
前日までなんの誘いもなかったので花祭り当日に会いに行ったら、ぞんざいに花束を渡されたのだった。
そして、その際にケイオスに言われた台詞で、その花束はキャロライン王女へ捧げた花の残りだったという落ちも付いた。
去年のさんざんな思い出を思い出していると、クラスメイトに話しかけられた。
「ニコル様は、ケイオス様から花をもらうのでしょう?」
ニコルは首を横に振った。
「残り物をいただくのは、やめにしたの」
情けない笑い話として去年の話をしたら、クラスメイト達はニコルが思った以上に憤ってくれた。
「なんてこと」
「あまりに酷すぎまわ」
彼女達もケイオスがキャロラインに心酔していてニコルが冷遇されているのは知っていたが、ニコルの口から聞いた実体が酷すぎて開いた口がふさがらなかった。
「まあ、こちらから会いに行かなければ関わることもありませんし」
今年は会いに行かない。花をもらうことも期待しない。ニコルはそう決めていた。
去年、花を渡された時、一応は花を用意してくれたんだと安堵したニコルに、ケイオスはこう言った。
「キャロライン様にも同じ花を渡したがよくお似合いだった。お前にも似合うだろう」
今思うと、あの瞬間に完全に心が壊れたような気がする。
それ以降はどんなにぞんざいに扱われようと王女を優先されようとどうでもよくなった。
きっと、僅かばかりでも残っていた婚約者を慕う心が消え失せてしまったのだろう。
でも、そのおかげで今はとっても楽なので、ニコルはこのままの日常が続けば満足だった。
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