第298話 SL

 今日はSLの試運転だ。と言ってもミニサイズで、軽乗用車よりも小さい位だ。


 あまり小さいと逆に作り難いといい、ある程度の大きさにしていた。


 俺は車輪の設計で少しアドバイスをしていた。


 今回レールは30 m程を組んでいて、先ずはその範囲で僅かばかりの距離を進む事が可能かどうかのテストだ。


 車輪を外した状態であれば、車軸が回る事は確認している。

 今初めて車輪を付けた状態でレールに乗せる。

 一度動いてるから、機関が仕事する事は分かっている。

 操縦席だけはどうにもならなかった。

 小型にする訳にはいかなかったので、SL だと石炭が載っているあの部分に急遽操縦席を作った。魔力を込める魔道具、ブレーキとアクセルに相当するレバーだ。

 また各種安全弁。安全弁(逃し弁)の操作やらなんやら、本物は複雑だそうだが、ミニモデルはそこまでしていない。でも逃し弁は必須だ。圧力を逃さないと最悪の場合爆発するからだ。このサイズだと付けない訳にはいかないのだ。


 一応汽笛も作ったというので紐を引くと汽笛が鳴る筈だと言う。


 そうして動かして行く訳だが、今回は魔石を使わずに俺の魔力で行いたいと言う。

 その為操作方法を教えて貰いながら俺が運転する事になったのだが、はっきり言うとイベント会場で見る お子様を引っ張るミニSLの状態である。あれよりは大きい物ではあるが、その域を出ない。


 そして魔力を込めると、魔力量に応じて段々蒸気が発生してきた。次に動力を車軸に伝える時が来た。一瞬車輪が空回りしたが、力強く車輪が回りだし、その車体が前に進み始めたので、言われるがままにレバーを引き速度を上げる。段々速度が上がるが、いかんせんレールが短い。 ある程度進むと周りが騒ぎ始めた。そうブレーキ!ブレーキ!と叫んでいるのだ。


 俺は慌ててブレーキを掛けてレールから落ちる直前になんとか停止する事ができた。


 皆大喜びである。そして反対側に向けてセットし直し、今度は魔石で動くかどうかを確認する。今度は百合亜達が操縦をする。俺の魔力で動いているのでほぼ大丈夫だろうとは思いつつも、皆不安と期待の目を向けている。そして百合亜がレバーを操作すると見事に機関車が動き始めたのだ。


 勿論皆大喜びであるが、俺もつられて喜び皆とハグをしまくったが、勿論大成功だった。


 そして現在は街道に対して、横に1本新たな道の整備をし始めた。鉄道用のレールを引く道を整備していたのだ。機関車が完成すると一気に鉄道網が広がるだろうと考えている。よくよく考えてみたら、今後大いに発展するだろうとの事で、複線で行く事になって、まずはワーグナーから隣町までの拡幅が既にユリア達が進めており、レールを敷く工事が着々と 進んでいたのだ 。そうして機関車の製造に取り掛かる事となり、資金は俺が全て出す事にした。


 魔道具を使えば、水魔法を発動して水を生成し、蒸気を発生させる為にボイラーで水を沸かすのには大した量の魔石を必要とはしない。 それに魔石は大量にあるので、鉄道を作っても数十年分使えるだけの魔石を既に俺が持っている。


 その為、設計段階からまず水を貯めておくタンクを廃止しており、魔石をある程度しまっておく収納スペースが必要なだけで、地球の物と設計が異なって来る。


 鍛冶職人を総動員して、この世界では未知の乗り物の製造を始める訳ではあるが、ユリアはつきっきりで指導する事になるのであろう。鉄道が出来る、それはとても楽しみである。 俺だけでいうと、飛んだりゲートを使えば確かにそれで移動できるのではあるが、列車の旅、これもまた一興である。列車が稼働を開始すれば、大量輸送で人も荷物も高速に移動する事が可能で、更に経済が発展していくであろう。馬車徒歩に比べると段違いだ。


職人については、今まで兵士向けの武器を作っていた者を充てる。冒険者向けは需要があるが、兵士の数は3分の1位に減る筈だ。


 地球との文化の進み具合が異なってしまうが、この世界特有の魔石や魔法を取り入れた独自文化として発展させたい!俺はそう願っていた。


 しかし意外だったのが百合亜が SL マニアで、ある程度の図面を頭の中に抱えていた事だった。部品の設計がきちんとできる訳ではないので 、彼女はちゃんとした図面を書き起こす事が出来ず、まず百合亜が大雑把なのを書いて、俺が清書してちゃんとした図面を起こす。 そういった感じで図面を起こしていた。その為に職人に特注の製図用の机を作って貰っていた。当然今の日本のようなコンピューターCAD ではなく、手書きで図面を書く。

 図面を書くのに使うのは専用の机である。製図用の机を見た事がない方はパッとこないだろうが、昔は図面は手で書いていたのである。 俺も学生の頃の授業でまずは手書きの製図をさせられたものである。その為、製図机は嫌と言うほど触ってきた。また会社にも手書きの図面を書く為の机が用意されており、俺のいた会社でも年寄りが コンピューターでどうしても描けずに試作機を作る場合は手書きで図面を起こしていたりしていた。職人が設計しているのだから、中々マニアックな物ができていた。


 俺はあれ?っと思った。製図の机やコンピュータの事は何となく覚えてはいたが、何の図面を起こしていたのかが思い出せなかった。 昔はパソコンではなく、高価なワークステーションを使っていた。


 またまた頭を抱える俺であるが、試作機のSLが無事に動いた事による喜びの方が大きかった。そして俺は別の指示を出した。

 さっきの試作機はいずれ文化的な資料として保存する事になるだろうが、まずはこれが走る事が可能な円形のレールを作成し、時折運転会を行ってそれに子供達を乗せてあげる。そういうイベントを行ったらと思い、提案をしてみるたが皆が皆驚いていた。


 それの使い道は、実用的な事ではなく、子供を喜ばすというのもあるが、SL というのは怖い物ではないよ!とか、どういう物なのかを世の中に知らしめるには、まずは子供に慣れ親しんで貰う。それらを見に来るというのは、子供の親もついてくる。そして親がその凄さと子供の喜びでSLを受け入れてくれるだろう。そうすれば普及させるのに大いに役立つだろうという思いもなくはなかったのだった。

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