第121話 隣国へ

 day34


 いつも通りの自然な目覚めではなく、クレアに起こされた。体を軽く揺すってきている。

 何故かクレアが泣いていた。


「おはよう。どうしたの?」


「おはよう御座います。何か恐ろしい事が起こる予知を感じたのですが、何かが分からないのです」


「そうか、何か分からないのは不安だよな。教えてくれてありがとな。ここを引き払うつもりで準備を進めよう!」


「折角手に入れたお屋敷なのに残念です」


「また買えば良いさ。君達がいてくれさえすれば、野宿でも俺は大丈夫だから」


 そう言うと頷いて出ていった。俺は2人を起こして見張りの番に就く。


 そういえばと、シェリーに渡しそびれていたネックレスを渡して着けてあげた。

 シェリーはうっとりと宝石を眺めていた。見張りは俺一人で十分なので、2人には装備の点検と大事な物を身に着けさせた。万が一ここを占拠されても、お金で何とかなる物はしょうがないが、思い入れのある物とかを持ち出す為の準備を指示した。屋敷周辺の人の動きが良くない。


 普段と違う事をすると目立つので、早朝のランニングをいつも通りにすると決めた。

 走り出す時間になり、皆を起こしてランニングを始めた。

 表立って普段と違う事は無いが、監視されている事がひしひしと感じ取れた。

 ほどほどにして切り上げ、屋敷で稽古を行った。馬の世話等、普段行っている事を一通り行った。その後で皆と食事をし、見た目は普段と同じ行動を行った。


 ナンシーをゲートでギルドに連れて行き、ギルドマスターに奴隷商人の事を伏せて、さる情報筋より入手した情報として良くない状況と、ナンシーが当面出勤出来そうにない旨を伝えた。そして暫くの間他国に身を潜めるつもりだと伝えると、何やら一筆書いた書類を封筒に入れ封をしてからナンシーに渡していた。

 ギルドでも異変を感じており、注意を払うという。


 ギルドから直接奴隷商にゲートで向かい、屋敷にいるメンバーには出発の準備をさせる。各自の装備以外ではテント等、俺が強化した物は全て持ち出す様に指示をして出発の準備を行った。屋敷組には今日の内に撤収の準備を完了しておくようにお願いをしておいた。


 奴隷商にゲートで行くと、奴隷商の主の部屋に向かった。主人には予め転移で直接来ると伝えておいたが、既にトマスとその婚約者が待機していた。最早隠してはいないというか、トマスから城での事を聞かされ、全てを知っている筈だ。


 トマスと握手をして早速欠損部位の修復を行い、無事修復を終えた。

 奴隷商に次回のオークションの参加はナンシーと俺とセレナの各々でと申し込んでおいた。セレナについては変化後を見せているので大丈夫だろう。

 そして転移しても良い場所を確認しておいた。


 ついでに目玉になる娘と面談をした。


 確かに見目麗しいが、やはり子供だ。面談室に通された後、黒髪黒目でひょっとして日本人か?そう思いカマを掛けた。


「俺はS級冒険者の藤久志郎と言う。君は西暦何年生まれだ?俺は岐阜県出身だ」


 そう言うと一瞬ドキリとした表情をした。


「西暦とはなんでしょうか?岐阜というのはどの辺りでしょうか?訪れた事はありません」


 言葉を選んでいる。あらかじめ嘘は禁じられている。普通は聞いた事の無い地名や、知らない地名等と答えるだろうし、日本人だと知らない訳のが無い。47都道府県は既に習った年齢だ。


「噂通り頭が回るようだね。言葉を選んでいるのが分かるんだよ。イエスかノーで答えて欲しい。君は俺と同じ国の出身だろう?イエスかノーか?」


 彼女は強張ってイエスと言わざるを得なかった。


「次回のオークションにて俺か、俺の妻達が君を落札する。一緒に付いてこい。同郷だし助けよう。君はこの世界に来て何年だ?俺は転移させられて34日目だ」


 その様に尋ねると、彼女は涙を浮かべて色々と語り出した。


 3年前にこの国に召喚された。一緒に召還されてきた者達は皆流行病であっという間に死んでいったと。自分は死を偽装し、何とか逃げ出した。しかし、逃げている道中に盗賊に掴まった。売れば金になるからと奴隷商に売られたと。


 時間軸がおかしかった。彼女が転移させられたのは俺達が転移した3ヶ月後で、俺達の転移は動画も出回っていて、彼女も見たという。。世の中は大混乱になったという。俺は召喚の影響から45歳から18歳に若返ったと。確かにサラリーマンが1人、一緒に巻きこまれていたという。俺よりも未来から来て、過去に飛ばされているのだ。


 彼女は 谷村 水樹 

 転移時は小学校五年生で、自分以外の79人全てが自分より低学年の生徒だったという。

 術式が失敗して低年齢層の召喚になったのだろうか?

 抵抗力がなさ過ぎて、この世界の環境に体が適合出来なかったのだろう。可哀想に。それでもこの子だけでも救ってあげたい。強引にここからゲートで逃げる手もあるが、それは民間レベルで逃亡者になる事を意味する。この子は持ち込まれた奴隷だ。ここの販売奴隷であれば、奴隷引換券で今引き換えるのだが、残念ながらオークション奴隷だ。


 ギフトはダンジョンマスターだという。

 どうやらダンジョンを作ったり支配できるようだ。俺の持っているコアも役に立つかな?

 それと収納はやはり0.5トンだった。

 一応記憶を失っていて、体付きなどからどこかの元貴族の娘との扱いになっていた。


 彼女と握手をしたが幻影が見えた。

 大人になった彼女とダンジョンに挑んでいた。歳は18から20だろうか。彼女は俺の恋人か妻だった。少なくともそう言う距離感に感じた。


 うーん凄まじく綺麗だった。今も子供とは言え将来有望と思える外観だ。成長した彼女はボン・キュッ・ボン。


 その中で俺の傍らで俺になにやらアドバイスを行っていた。女神イリーナがどうのと話していたが、誰だ?また、どうやら知恵袋的な存在だと感じ取れた。数年後の彼女なら俺のどストライクだ。光源氏計画スタートかな。ゲスである。


 それはさて置き、幻影での彼女が18歳以上という事は、つまり数年後も彼女は帰れていない。逆を言うと俺も帰れていない。そういう事だろう。

 別の考え方だと、2人共数年後も生きており、少なくとも数年後の時点で2人は自由だと言う事が読み取れた。

 今不穏な動きがあるが、仮に今拘束されてしまっても、数年後には乗り切っているという事だろう。一緒に居る中にナンシーやセリカや知らない者の姿がちらっと見えた。数年後も彼女達と一緒と言う事だな。ただ、幻影が終わる時にイリーナと言っていた時には青き娘、大天使?見た事のない女性、そして今と変わらぬクレアの姿を見た。


 水樹は俺と同じく驚いていた。

 俺の隷属契約の事を説明して、一旦俺の奴隷にしてあげた。隷属の首輪が外れてしまったので、カモフラージュで魔力を一度に強く込めると破壊されるアイテムに作り替えた。何故か思ったら出来た。


 水樹は幻影というか、予知を見たのもあるが、俺の庇護下に入る事を望んだ。こっそりどら焼きの様な甘味を出してあげると喜んでいた。


 念の為ステータスを偽装した。これには彼女が召喚者とは分からない様にする為だ。


 一応他の奴隷も見るもこれといった者はいなかった。見た目は綺麗な娘ばかりだが。


 奴隷商から屋敷に直接移動した。


 妻達には水樹と接触した時の幻影を話した。数年後は生きていて皆一緒だと。何が有っても諦めずに頑張ろうと。それと13才の娘をオークションで奴隷引換券を使い購入する事。この子も異世界からの転移者で有ると伝え、ちゃんと守ってやって欲しい、家族になってあげて欲しいと涙を流しながら頼んだ。


 馬車小屋にゲートを出し、そこからリスタート地点に移動した。屋敷には残すのは最小限のメンバーのみとし、俺達は隣国を目指した。


 移動開始時、セレナに伝える必要の有る事を伝えた。

 幻影の事で、日本に帰る希望がかなり薄い。少なくとも数年先はこの世界にいる筈の幻影だったと伝えた。


「もう貴方と共に人生を歩む覚悟をしているの。貴方がいる場所が私の居場所なの。だから一緒にこの世界で生きていきましょう」


 お互い抱き合って暫く泣いたが、その間も馬車は粛々と進むのでたった。

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