第120話 奴隷商の願い
来たのは奴隷商の主だった。
応接よりも俺の執務室の方が良いと判断して、執務室に案内させ、執務室にある応接セットに座って貰った。
だが奴隷商は応接室ではなく、執務室に招かれた事に驚いていた。
いずればれるからと奴隷商には俺の能力を伝える事にしていた。なのでウリアを同席させている。
元々この奴隷商が長年手塩に掛けた高級奴隷だからだ。勿論顧客の情報を守る事を条件に秘密を話す事にし、欠損奴隷の修復に成功した旨を伝えたが、こちらの予想と反して余り驚いてはいなかった。
逆に警告を受けた。
既に知っていて、感付いている者が自分以外にも居ると。
「すまない。話を聞く前にこちらの話をしてしまった。本日の訪問の要件は何でしたか?」
「恐れ入ります。小耳に挟んだ情報がございまして、その件でのご忠告と、今度のオークションのご案内で御座います。それとS級に成られましたお祝いを申し上げたく参りました」
「いや、御丁寧に有難う御座います。あっ、そう言えばそうか、そろそろそんな時期か」
ナンシーとシェリーを見ると頷いている
「今回はマーガレット嬢が亡くなった為に、最高予定額の奴隷の行き先が読めない状況で御座いまして、例えご購入なされなくてもオークションの入札を見るのも面白いかと思いまして、お誘いに参りました」
「うん。流石に俺も増やし過ぎたから、今回は変態貴族等に行かないのであれば静観かなと思っていますが、何せ奴隷引換券がまだありますので、いざとなれば何でも行けます。ですが、わざわざ来られたからには目玉になる奴隷が有り、それを落札する事を勧める為に来られたのでは?」
「流石ランスロット卿で御座いますな。鋭いですな。実は若干13歳なのですが、これがまた既に絶世の美女との呼び名も高く、これなんですよ!」
胸に手を置き大きいぞというアピールをしている。
「いやー流石に13歳の子に刻印の儀を出来る程に俺の精神は出来ていないですよ」
「その子はですな、頭が大変良くて、既に王家に出入りしている私塾の塾頭を論破した学者でもあると言うのです。無論ランスロット殿が幼児愛好者ではない事は存じ上げておりますし、さすればナンシー嬢の奴隷にすれば同性同士ですので刻印の儀は不要で御座います。ですので成人を迎えるまでお待ちになれば大丈夫で御座いますよ」
俺の心は少し動いた。今この家には一番頭が良いのが俺で、次がセレナになるだろう。但し異世界の知識だ。この世界の知識で言うとお世辞にも抜きん出て居る者は居ないのである。
「ナンシーどう思う?」
「我々には参謀がおりません。極端に頭の切れる者がおりませんから、その子が成人するまで私の庇護下に置いて、貴方好みに調教をすれば良いと思います」
ナンシーは奴隷商に向き合った。
「私も興味が有ります。面談はいつ出来ますか?」
「もし宜しければ今からでも行けますが、如何しますか?」
ナンシー達の様子を伺ってから、頷いてお願いした。
「それと警告はなんだった?」
「何でも先日死亡されたと言われている召喚勇者であるセリカ様が生きておいでで、こちらの屋敷に出入りするのを見たという噂が御座います。何でも王がご執心だったとか。それとランスロット様のお名前が、先日勇者召喚を行った後に王女様に暴行を加えた罪で放逐された方の名前と一緒だと話題になっております」
背中に冷や汗をかき、試しに語気を強めた。
「貴様は俺の事を何処まで知っている?前から頭が切れる奴だと思ってはいたが、俺が思う以上に知っているのではないか?」
「ほっほっほっほ。失礼ですが語気を強めても無駄ですぞ!試しておいでなのは分かっております。無理をせずに普段通りで結構で御座います。私が知っているのは、トマスから聞かされているからにございます」
俺は思わず剣を収納から取り出し、切っ先を奴隷商に向けた。
「てめえ!あの方に何をしやがった!」
「ふふふふふ。まあそう興奮なさらずとも大丈夫で御座いますよ。私は勇者様のお味方で御座いますから」
何食わぬ顔をして、出されたお茶を一口すすっている。予想の範囲内の行動らしい。しかもしれっと俺の事を勇者、つまり召喚者だと口にしたのだ。
「あれがですな、嬉しそうに言うのは久し振りでしてな。あいつ、あいつが生きていたんだ!俺は命令されたとは言え、あの森に置いて来てしまったんだ!そんなあいつが生きていたんだよ!と。貴方から貰った短剣をそれはそれは嬉しそうに見せるのですよ」
俺は口をポカーンとして思わず呻いた。
「えっ」
取り敢えず剣をしまった。
「愚息がお役に立ったようで何よりです」
どや顔でにんまりしながら言ってきたので驚きまくった。
「まさか!トマスさんのお父上でしたか!これは失礼しました。それにしても人が悪いですよ」
「ふふふ。流石に驚かれたようで御座いますな。それと先の情報の見返りとは言いませんが、一つお願いがありまして、どうかお聞き入れ願えないかと思いましてお伺いした次第でして。その、可能な限り謝礼もしたいと思いましてな。あと、セリカ様を奪取しようと色々な動きがありますので警告をしておきます」
珍しく言いにくそうなので、尋ねた。
「ほかならぬ貴方の頼みだ。俺で可能なら何でも言ってくれ」
「実はですな、トマスの婚約者が先日暴漢に襲われましてな。右の目と耳、左腕を失ってしまいましてな、貴方なら何とかなるのではないかと思いまして。その無理なお願いだとは承知の上でお願い申し上げる次第です」
「分かりました。明日朝9時には奴隷を見に行きますから、それまでに商館に連れてきておいて欲しいのですが、出来ますか?無理なら直接お伺いしますが」
「よ、宜しいのですか?勿論可能で御座います」
「トマスさんの婚約者だし、まあ先の話の情報料としては不足かもですが、やりましょう!」
握手をして奴隷商は引き上げていった。カモフラージュであと何件かオークションの案内の為に得意先を訪問するという。
俺は全員を食堂に集め、先の奴隷商との話をして、注意喚起と明日からの行動について話をした。
最悪ここを引き払うから、大事な物は持っているようにと。明日からは武装をして外出する旨を伝えた。
ナンシーに参謀候補者について話をして、念の為に奴隷引き換え券を1枚渡しておいた。
なんだかんだと寝る時間になっていた。今日は念の為にと警戒の為に3人1組で歩哨を立てる事として、俺は最後に夜伽の番の者と担当する。
夜伽当番はシェリーとフレデリカだったが、嫌な予感がして長い時間力強く抱き締めて愛していると何度も呟いた。そして嫌な予感とは当たる物である。勿論こんな時だから添い寝だけだ。
しかし、眠気も来るし、寝ない訳にはいかなく、フレデリカに抱き締められ、その心臓の鼓動を子守唄代わりにして眠りに落ちていった。
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