第58話 シェリー

 day12


 朝起きると微妙に知っている天井があった。

 自室の寝室である。

 昨晩はゆっくりと色々な事について考えを纏めていた。


 シェリーと出会ってからはというと、常にシェリーかナンシーが一緒の布団に入っていただけに、この世界に来てから3回目の1人での夜だった。


 朝食を皆で取る。新人4人が準備してくれていたが、パンと玉子焼きと大した内容ではないにも関わらず、贔屓目無しに美味しかった。


 4人には食後に冒険者向けの服に着替えてもらい、予備武器のダガーを護身用に装備させた。フレデリカにだけは俺が最初に手にしたブロードソードを装備させる。元騎士である為唯一正式に訓練を受けているし、自分の脚を切る心配が無いからである。


 彼女にその剣の経緯を説明した。4人には成長と供に良い武器に替えていくが、今は敢えて普通の武器を渡す。それは初めから良いというか、チート性能の武器を与えてしまうと武器の性能に依存してしまう為だ。


 戦闘を苦手としていても、ある程度までは強くなって貰う。その為暫くは家の事と冒険者と色々やって貰う事を説明した。


 俺は先日貰った服に着替え、4人を連れてギルドに向かう。シータとエリシスが俺の腕を取り、腕を組んでいるが悪い気はしない。


 ギルドに着くと皆の恨みがましい視線が痛かった。早速ナンシーと合流して専属部屋に入り、4人の事をお願いした。そして今日はシェリーと2人で別行動というかデートだ。


 ナンシーは頷いた。俺の格好を見て理解したようだ。シェリーとデートする事を察したのだろう。そしていよいよ自分が明日なんだと。


 4人には各々の為に用意しておいた財布と、お金を持たせた。


 4人の前でナンシーにキスをして、今日は4人を任せるよとお願いして、俺はシェリーとのデートに向かう。他の女とイチャイチャするのに、更に抱いた女の世話を押し付ける形になり後ろ暗いが、この世界の倫理観は違うのだ。ナンシーに当たり前の事として受け要られ、次は私よ!といった感じでナンシーはウキウキし、別れ際にシェリーへの刻印はやさしく、一生の思い出になる素敵な時間にしてあげてね!とさえ言われた。勿論何をするのかを分かって言っているのだ。

 恐らく4人から俺との刻印の儀の時の様子を根掘り葉掘り聞き、4人もうっとりと話すのだろうと思う。至極の時間だった。習わしと皆に強要され4人連続でしなければならなかったのが惜しまれるし、デートをしていない女を抱いた事に俺の心は少し傷んだ。但し、少しだけだ…


 そんな感情は何処へやら、今はシェリーとのこれからの事にウキウキしていた。今の俺は時間は待ち合わせの5分前に待ち合わせ場所で待っている。日本のサラリーマンである。5分前行動は身に染みているのだが、この時の俺は、何故少し前に来たのか自分でもよく分かっていなかった。大学の頃は近くで時間を潰し、相手が先に待っているのが見えようがお構いなしに、約束の時間の1分前に現れる事しかしてこなかったのだ。


 中央広場の噴水前で待ち合わせだ。

 時間きっかりにシェリーが現れた。俺と違い腕時計がないのにだ。

 今日のシェリーの服は先日我慢できずに見せてくれた服だった。大人びて見え、とても綺麗です。


 清楚な服が相まってクラクラする位です。いや、クラクラしましたとも。


「おはようシェリー。似合い過ぎて眩しいよ」


「おはよう。似合っているわね。私の王子様!」


 お互い恥ずかしい事を言うのである。

 うーんまさに天使。


 早速手を繋いで歩き出す。何処に向かうでもなく、気が付くといつの間にかいつもの服屋に来ていた。先日注文したドレス、高級ランジェリー、寝間着等をシェリーの分だけを受け取る。ナンシーの分は明日だ。プレゼントだよと渡すと涙を浮かべていたが、後で見るとして今は収納に入れた。


 次に喫茶店でお茶をする。紅茶を飲みながら俺の身の上話を少ししていた。俺の向こうでの事を聞きたかったらしく、うっとりと聞いていた。

 1時間位そうしてから店を出て、予約していたレストランに行きランチを愉しむ。


 シェリーの食べ方は綺麗だった。俺は情けないが食器がガチャガチャとしていて恥ずかしかったよ。


 店を出て腕を組んで歩く。美少女と腕を組むなんて優越感は半端ない。自慢の彼女だ。


「何処か行きたい所は有るかい?」


 「この町を知らないし、6才からまともに外を見た事が無いのでよく分からないの」


 俺も分からないが、伊達に先日単独行動はしていない。


 町を適当にぶらつき、甘味の店でおやつタイムとついでに買い出しを行った。時折屋台で買い食いと買い貯めを行った。他愛も無い事が良かった。俺も彼女もこの国の人間ではないから何もかもが新鮮だ。


 やがて夕方になっていく。


 見晴らしの良い丘の上に来ていた。一応門の外だが、俺には無限収納がある。短剣を腰に差して帯剣を周りにアピールし、無用なトラブルを避けた。


 町を見下ろす丘がある。そこから見える夕方に沈む町は幻想的だった。


「綺麗」


 とシェリーは涙を流していた。俺は夕焼けに染まるシェリーの横顔にうっとりとしていた。


 そんな彼女の涙を手で拭い、そっと唇を重ねる。


「シェリー、いつも有難う。俺が今こうして生きているのは君が必死に助けてくれたからだ。愛している。俺の伴侶となってくれ」


 彼女を見ると顔を手で覆い大粒の涙を流す。


「そんなの勿体ない。私なんて欲望の捌け口としての性奴隷で良いのに」


 軽く頬を掌で叩いた。


「そんな悲しい事を言うな。君が居るから俺が居る。君は俺の半身なんだよ。俺の女神様なんだよ。俺は君が欲しい。君じゃ無きゃ駄目なんだ。俺はシェリーに相応しくないかもだが、君は類い希なる女性だ。愛している」


 泣き出して抱き付き必死に頷いていた。何度も何度も嗚咽と供に。


 熱いキスを10分位交わす。ちょっと胸もタッチする残念なゲスだが、それでもシェリーに対する想いは本物だ。


 KYって知っているか?と言いたくなるようなタイミングで俺のお腹が鳴ってしまった。危険予知の方じゃ無いからね。


 夜になる前に町に戻り、予約していたいつもの宿で夕食を愉しむ。知っている店で安心して食事をしたかった。そんな俺達を見知った4人組のパンティー、いやパーティーが隣の席で羨ましそうに見ていた。時折聞こえる会話から先日オーガが出た森の定期調査の依頼に行くようだった。嫌な予感がしたが、食事が終わり我が家に帰った。


 やはり家に帰ると何故か帰るのが分かったようで、4人がメイド服で出迎えてきた。


 その後シェリーと2人でシェリーの部屋に入る。チョットドキドキした。女の子の部屋なんてと思ったがまだ荷物の整理が終わっていなかった。


 シェリーに追加で服屋で買った注文服と寝間着をプレゼントした。


「今日は楽しかったです。人生で一番良かった日です」


 深々とお辞儀をされた。


 お互い別に風呂に入った。今日はシータとエリシスのお風呂当番だった。


 風呂を出てから俺もナイトガウンを羽織っていよいよシェリーに刻印の儀を行う決断をした。


 少し落ち着いてからシェリーの部屋に行く。

 ノックをすると返事が有り俺を迎え入れてくれた。

 今から勇者による刻印の儀式を行うと告げた。


「ランスに刻印の儀を、それも勇者の刻印を刻んで貰うなんて夢のようだわ」


 初めて様付けじゃ無くなった。俺は嬉しくて有頂天になった。

 彼女は肋骨の浮きも改善し、すっかり健康になっていた。そして儀式を執り行った。彼女の全てが愛おしかった。


「有難うランス。ランスからの私への誕生日のプレゼント確かに受け取りました。刻印を刻んでくれて有難う。こんな素晴らしい誕生日プレゼントは他には無いよ!」


 誕生日だと言う。17になったのだ。知らなかった…


「おめでとうシェリー。俺も嬉しいよ。この世界に召喚された事を最初は怨んだけど、君のお陰で今は感謝すらしているよ」


 軽くキスをし、力強く抱き締め、彼女の温もりと行いに感謝した。やがて2人は眠りに落ち、穏やかな寝息を立てるのであった。

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