第13話 奴隷と闇

 奴隷についてざっくりと聞いた。どうやら彼女の所有者だった奴隷商人が盗賊のリーダーに殺され、所有権が仮で殺した盗賊団のリーダーに移った。奴隷商人が売り物の奴隷を縛り付けるのは奴隷商特有の仮主人という権利の付与らしい。 


 そして俺がその盗賊を殺した為、俺に所有権が移った。本来は仮でしか移らない筈なのに、俺が主人となったのは不思議な事だと言っていた。


 もし俺が仮主人だった場合、今回は国に所有権が移り、彼女はオークションに掛けられる筈だったそうだ。


 何故かなと考えたが、条件の一つはよく有る血だと思う。多分矢が刺さった時に掛かった血の所為だろうか?と話したが、血だけでは無理だと言われたが、正直なところよく分からん。


 彼女はその後の俺の戦いを、まるで英雄を見たかのように目を輝かせながら話していた。


「私はランスロット様に命を救って頂きました。あのままでは奴隷としてどこぞの変態に買われ、惨めな一生を過ごす事になる所でした。ランスロット様はとても強く驚きました。あと、その、とっても格好良かったです!どうかお側でお仕えする事をお許し下さい」


 顔を真っ赤にし、更に上目遣いで懇願された。可愛くてくらくらしそうだ。


 奴隷になった経緯については今は話してくれなさそうだ。命令すれば話さざるを得ないようだが、そんな事はしたくはない。


「もし許されるのであれば、何故奴隷になったのかについてはおいおい御話したいと思います。今は他にお伝えしなければならない事が多々有りますから」


 俺は分かったよと返事をした。


 次に部屋の中を確認した。部屋自体は小綺麗であり、Wベッドが一つと椅子とテーブルが有り、割と広い。広さは10畳位だろうか。

 日本だと2人で3万円位の部屋だろうか。後から確認したらお風呂とトイレも有ったが、俺はこの世界の事を知らなさ過ぎるので、普通の事なのか否かは分からない。


 次に自分の体をチェック。脚に刺さった矢の痕は無い。背中も痛まない。異常は無いようだ。

 服が寝間着だったので確認をした。


「そういえば、誰かが着替えさせてくれたようだけど?君がしてくれたの?」


「私が御召し替えを手伝わさせて頂きました」


 さらっと言われた。また、部屋の中には見慣れない服が置いてあった。確認したが、馬車の中に置いて有った服はサイズが合わず、宿の方に事情を話して買ってきて貰ったとのこと。


「シェリーさんの服は?」


 彼女の服の事を聞くと、キョトンとした顔で何を言ってるんですかと言う感じだった。


「奴隷の服なんか誰も気にしませんよ。この服で十分です」


 理解し難い事を言っていた。

 いや、君が良くても俺が困ると突っ込みを入れたかったが、口ぶりからすると奴隷としてしっかり教育されてしまったんだろうなと、奴隷は粗末な服が当たり前なのだと何となく分かり、奴隷についての闇の部分を思い知らされた。


 次にお金について確認する事にした。取り敢えずお金に関しては、当面困らない額が手元にある。金貨100枚程あったのだが、これだけ有れば暫くの間遊んで暮らす事が出来ると言っていた。


 それと、最初に言われたが、目覚めたら門番の所に顔を出さなければならないので、シェリーさんにお腹が空いたので食事をしてから出掛けようと話した。


 宿の食堂に行くと俺は空いているテーブルに座ったのだが、何故かシェリーさんが床に座ろうとしたので慌てて聞いた。


「何をしているの?」


「私は奴隷ですので、床に座るのが当たり前ですよ」


 さらっと言うが、確かに周りを見ると奴隷を連れている客が他にもいて、奴隷の女が床で粗末な物を食べていた。そして俺はその格好に驚いた。


 ズタ袋に頭と腕を出せるような穴を開けて被っているとしか思えず、とてもじゃないが服と言える代物じゃ無い。所謂貫頭衣ってやつだなとため息が出た。

 しかもほぼパイ乙が見えているんですが!辛うじてぼっちが見えないのが逆にショックだった。どうもパッドを貼って乳首だけは見えなくしているが、裸に近い格好だった。


 取り合えず、シェリーさんには一緒に座るように言ったのだが、驚いた事に反論されてしまった。


「いけません。それではご主人様にご迷惑を掛けてしまいます」


 どうやら納得しないので、説得は後でする事にするが、取って付けたような理由を言ってこの場は座らせる事にした。


「俺はこっちの文字が読めなくてさ、このままだと注文が出来ないし、病み上がりでしんどいから隣で俺を助けて欲しいんだけど、それも駄目なのかな?」


 そう言うと、渋々といった感じで隣に腰掛けた。


 注文を取りに来た20代半ばのウエイトレスが、奴隷が主人の隣の席に座っているのを見て驚いたようだが、メニューを読み上げて貰っている状況からなるほどとなったようで、何も言わなかった。


「じゃあオーク肉の煮込み定食が良いかな。シェリーさんは?」


 彼女は不思議そうに首を傾げたが、その口から出た言葉に愕然とした。


「奴隷食で」


 そう言ったので慌てて止めて、ウエイトレスに同じのを2つでと注文し、食事の代金以外に余分なお金を握らせた。


 お金を握らせたからか、流石に何も言ってこなかったが、奴隷食が有る事に驚いた。メニューの欄外に小さく書かれているのがそうなんだろうな。確かにあの奴隷の女は粗末な何かを食べていたが、あれがそうなのだろうなと、俺はまたもやため息をついた。


 そしてシェリーさんは、アワアワと慌てふためいていた。


「そ、そんな訳にはいけません」


 そう言うので、仕方が無いので最終手段に出る事にした。


「主人として命ずる。同じテーブルに座り、俺と一緒に同じ物を食べるように」


 そう言うと目を輝かせていた。


「はい分かりました!ご主人様」


 もしも尻尾があったら、ブンブンと振られているんだろうなと思う。


 ふと思い、俺に対する呼び方について聞くと、誰も居ない所では名前や主人が言うように指定した呼び方で大丈夫なのだが、外では例外なくご主人様と言う決まりが有るのだそうだ。

 後で奴隷についてきちんと聞かなければならないなと思った。それと奴隷に対してだが、人前ではさん付けは駄目で、名前を付けるまでは仮称としてシェリーと呼んでくださいと言っていた。


 食事が来ると彼女はソワソワしていて、俺の方をじっと見ていた。あっ、そうか!とハッとなった。俺が先に食べ出さないと、多分彼女は食べる事が出来ないだろうなと気が付いた。ふと見ると涎が垂れていたが、見なかった事にしよう。


「いただきます」


 そう言ってから俺が食べ出したが、不思議そうにしていたのでシェリーに告げた。


「食べて」


 そうして食べるように促したが、引いてしまう位にガツガツと食べ出した。また、涙が零れているのを見てしまった。見兼ねてそっとハンカチで目を拭ったが慌てて違うと言わんばかりに誤魔化そうとした。


「これはその、汗なんです」


 勿論誤魔化しきれてはいないが、頷いてそっと拭ってあげた。


 最後の方は色々落ち着いたのか、食べ方が優雅になっていた。


 彼女の体が細いのは、スタイルを維持するのに努力をしたからではなく、単に食事の量が少なかった為なのだろうなとため息が出そうだった。

 美少女同伴の楽しくウキウキな食事の筈が、俺には味を感じられず、ただただ腹を満たすだけの食事と、この世界の現実を知らしめられる時間になってしまい、この世界の闇に毒づいた。


 食事の後、宿屋の主に一週間分の料金を支払い、服を売っている店の場所を教えて貰った。俺の部屋とは別にシェリーの部屋を用意して欲しいと頼もうとしたが、宿の方が驚いていたのと、シェリーに猛反対された。


「いけません。私は厩で十分ですから」


 このような事を言い始めたのには正直なところ驚いた。奴隷は普通厩等が割り当てられ、草の上にシーツか毛布を掛けた上で寝るのが普通だそうだ。稀に一緒の部屋に泊まる場合も有るが、それでも夜伽の相手をする場合以外は、ベットでは無く床だそうだ。取り付く島もないので、取り敢えず今の部屋で一緒にとなってしまった。


「奴隷の扱いって酷いな」


 俺は項垂れながらぼやいていたのであった。

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