第5話 小さな恩義

 意識を取り戻した俺は周りの状況を確認した。

 人だけを運んだら6人は行けそうな馬車のようだ。

 ただし、荷物用と思われる荷台に幌がついているだけの粗末な作りだ。

 尻にクッションを当てないと痛そう。と言うより当てていたとしてもめちゃ痛そうというか、実際問題かなり痛かった。


 馬車の中には3人の兵士がいる。

 御者がいるから最低4人はいると言う事だが、そのうちの1人から声を掛けられた。


「兄ちゃん起きたか。もう少しで目的地だぞ。しかし何をやらかしたんだ?南の魔の森にこんな時間に、しかも1人で放り出すって死ねって言っているようなもんだぞ」


「今は何時ですか?」


「もう少ししたら夕方だぞ。それと今いるのは森の奥深くの中心部に近い所だぞ」

 

 その若い男は俺を起こしてくれた。縛られているのて1人では起きられなかったからだ。


「召還者だから理由が何であれ処刑出来ないけど、兄ちゃんへの処置は実質的に処刑だぞ!」


 俺は必死に頭を働かせ、現状を理解しようとした。話し掛けてきた兵士はまだ若く、20代前半位だろうか。名前はトマスと言われていた。また、もう一人はトマスより2、3才年上だろうか。


 一番年上の者がそろそろ40才になろうかと言う壮年だ。年齢的にはこの壮年の男がこの馬車の中の一行を率いているとみるのが妥当だろうか。


 話を整理するとどうやら俺はしてもいない第2王女への暴行の罪で放逐されるらしい。

 トマスに冤罪と訴えると、意外な事に返事をしてきた。


「そうかもしれないが俺達には関係ない。命令に従って兄ちゃんを森の奥深くに置いてくる事になっている。恨むなら命令した奴を恨んでくれ。悪く思わないでくれよ」


 さらっと言われ、やはり取り合ってくれない。


 悪い奴じゃ無さそうだけど、上の指示に盲目的に従う典型的な公僕って奴かな。


 国家や国の重責を担う者が召喚した勇者を、直接にしろ間接的にしろ一方的に殺すと、重大な呪いが国家に降り掛るとの事。神界との召還魔法契約で召還者を守る為にあるそうだ。よく分からなかった。


 俺に隷属の首輪を使おうとしたが俺には効かなかった。その為、飼い殺せないと判断して追放に踏み切ったとしか考えられない。何故死んでもらう必要が有るのかまでは分からない。脅威になるのならば、幽閉すれば良い筈だが、それも禁止されているのだろうか?


 そう言えば王の話の時に魔法を使っていたっぽいが、あの子達のその後の態度の変わりようからすると、洗脳や意識誘導等の精神干渉系の魔法なのだろう。

 何故か俺はレジストしたっぽいけど。

 俺の召還者特典かな?でも何故かレジストじゃなくてレジスットなんだよな。


 そして俺を危険な森に放逐し、魔物に俺を処分してもらおうと画策したっぽい。

 俺には持っていた荷物と、元々着ていた服を渡すそうだ。召喚者の荷物を奪う事も厳禁だそうだ。

 それと何かしらの武器を渡さなければ処刑したと見なされ、呪いの影響が出る危険性があるらしい。

 その為、どう見ても使い古した魔物や動物の解体用ナイフを武器として渡し、1日分の携帯食と水を渡すとの事。それらを入れた袋はかなりボロい麻袋のようだ。


 これで生き残れなかったら自己責任って事になるんだろうな。

 ふざけんな!と叫びたかったが自重する事にした。

 と言うか、怖くて言葉を発する事ができなかった。声から何かがいると感づかれ、魔物や獣を引き寄せるだろうからだ。魔物の事は正直良くわからない。ただ獣の場合、野犬の群れだとしても遭遇したら命取りになるから、心の中で叫ぶしかなかった。


 夕暮れが近付いて来た頃に馬車は止まった。


「降りろ」


 そう言われたが腕を縛られている為、トマスの手を借りて何とか荷台から降りた。


 そこは鬱蒼とした森だった。

 馬車が1台通れるギリギリの幅の獣道と見間違いするような道が有るだけだった。


 馬車を降り数m離れた所へ一緒に歩いていったが、トマスに指示をされた。


「こっちを向け」


 馬車の方を見ると先程のずた袋を投げつけてきた。

 そしてトマスは俺の後ろに回り、コンバットナイフを出した。


「ロープを切ってやるから動くなよ」


 そう言いロープを切ってくれたが、その時に小声で話し掛けてきた。


「しゃべるな」


 そう釘を指し、俺のベルトに何かを挟み込んできた。伝わる感触から何か固い物のようだ。


「すまんな。俺の給料じゃこんな事くらいしかしてやれん。解体用のナイフよりはましだろう。僅かだがお金を置いておく」


 そう言うと足元に小袋を置いていった。


「頑張って生き抜いて見せろ」


 最後にそう言い離れて行った。


 どうやら独断でしてくれ たようだ。

 俺も気付かれないように馬車が出発するまでその場を動かなかった。

 トマスが乗り込むと馬車は急いで出発していった。


 二頭立ての荷馬車で、馬は軍馬のようでかなり立派だった。

 暗くなると危険が増すので、暗くなるギリギリ前に危険地帯から引き返す事が可能な所まで来ていたようだ。


「行っちゃったか。さあてとこれからどうしよっかな?」


 取り敢えず所持品の確認をしてみる事にした。


 召喚時に持っていたビジネスバックには、スマホやタブレット、筆記用具、手帳、歯ブラシ等が入っていたが、サバイバルで役に立ちそうな物はなさそうだった。唯一の救いはペットボトルのお茶が在る位だ。


 トマスが腰に挟み込んでくれた物を取り出したが、一本のダガーだった!コンバットナイフといった感じか?先程ロープを切った時に使っていたコンバットナイフだ。刃渡りは25cm程だ。


 有難い。生存率がぐっと上がりそうだ。

 お金は銀貨5枚と銅貨10枚が入っていた!

 手持ちのお金の全てを置いていってくれたようだ。あの袋は財布代わりと思われたからだ。

 だがしかし、貨幣価値が分からんとぼやいたが、何故危険を犯してまで俺の助けになるような行動を取ったのかは分からない。


 袋の中の食料は野戦食と言うやつだろうか。干肉、固められたパンっぽいのと水が少々入っていた。

 そして解体用のショボいナイフ。正直な所、詰んだかなあ!と嘆いていた。


 だが、現実問題として、そのような事を考えていてもしょうがない。この先がどうなっているのかが分からない以上、来た道、つまり馬車が引き返して行った方に戻るのが現実っぽいなと考えた。


 周辺からは獣か魔物なのかは分からないが、何かの生き物の気配がした。


 「絶対あの王女へ仕返ししてやる!小便をぶっ掛けてやる!」


 俺はそう心に誓った!


 頬を叩き、さあ行動開始だ!と気合を入れ、その一歩を踏み出したのであった。



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