第34話 チートはチートでも……。

 さて。

 木々がいくらか開けた広場がある。

 早速“ヒト”と思われるモノを発見した。

 数は3。

 一人は広場の中央に立つ女。

 エルシィだ。

 別の位置には、エルシィを虎視眈々と狙うオークが二人。

 第七クランのダンとヴェリスだ。

 わたしボクは、レイとエルシィが出会ったあの日・あの場所に転移させられたらしい。

 MARK Ⅱが放った【タイムリープ】なる魔法によって。

 ボクは、あの時と同じく身を隠して、様子を見ることにした。

 

 オークの片割れ、ヴェリスが、あの時と全く同じ顔、同じテンションで言った。

「おおっと! 君達は“破滅の光”の罠を踏んでしまった!」

 おいヴェリス。自分の末路をいきなりネタバレすんな。

 てか、これ、ダンジョンの魔神王ロレンツォが言った台詞だろ! 台本間違えてるのか!?

 ……察しはついた。

 MARK Ⅱは、ただボクを過去に戻したわけではない。

 ボクを因果律の起点として、限定的だが“世界のソースコード”を無作為に編集したのだろう。

 ネットで、テレビゲームのプログラムをテキトーにいじくって、わざとバグらせた動画って観たことない?

 チートバグってやつだよ。

 で、恐らくこの“テキストバグ”は、起点となるボクの見聞きした言葉の中から引用されているのだろう。 

 恐らく引用される“アドレス”は、ボクがあのダンジョンで見聞きした言葉から選ばれる。

 さて。

 ヴェリスの意味不明な言葉を聞いたダンは、どう思った事やら。

「どうも、シャバでは我々の種族を中心としてチェーンソー教というのが興ったらしい」

 ダンは、訳知り顔でそう返した。

 ああ……あのダンジョンでお風呂に入った時に、そんな噂を耳にしたよ確かに。

 で、話が噛み合ってないのに、ヴェリスはヴェリスで、大いに頷いた。

「何をわけのわからない事を言っている。素直に刑を全うするんだな」

 おいおい、会話のドッジボールにもほどがあるだろ。これで、エルシィをさらうって意志疎通、ホントにできてんの?

 ……恐らくだけど。

 タイムスリップとかタイムリープについて話す時に付き物な“歴史の収束”的な力が働いてるのかな。

 頭の悪いオーク二人の会話が噛み合ってない程度のことは“世界”からすれば些事なのかもしれない。

 にしても、シュールだなぁ。

 で、まあ、お互いに納得したらしく、史実に基づいてエルシィに接近。

 で。

 ドーン。

 エルシィの“地雷型極大消滅光魔法”によって、オーク二名はあえなく蒸発。

 エルシィさん、それでようやく事態に気付いて、

「ガッシ、ボカッ! ピエロは死んだ。スプラッタ(笑)」

 どこから突っ込めばいい?

 今の! ガッシ、ボカッ! って打撃音で済まされる事象じゃないだろ!

 スプラッタってのは、血肉が残った死に様じゃないと説得力無いよ!

 なんと言うか“ピエロ”って言いぐさが、状況的にダン&ヴェリスを揶揄する洒落た表現にも取れるのがまた……。

「戦利品、戦利品、楽しみだぁ! げへへへへ!」

 戦利品になるもんも、全部消し飛んじまったってのッ!

 あんたの、オーバーキルな魔法のお陰でな!

 なんてか、森の中で神秘的な雰囲気纏ったエルフの少女っていずまいで! 神妙な顔で! よりにもよってその台詞を吐くなァァァァッ!

 ハァ……ハァ……ハァ……突っ込みどころが多すぎて身が持たない。

 で、まあ。

 そうそう。

 オーク二名をぶっ殺したことに心を痛めたのち、ここでボクに気付く。

 で? 今度は、あのダンジョン内での、どの台詞を吐くつもりだ!?

「……エッチな人だなぁ」

 初対面で開口一番、失礼過ぎるだろ!

 てか、おい、MARK Ⅱ!

 中途半端に「このままではまずい」って、焦ったんだろ!

 で、テキストコードの時系列アドレス、本来のに戻そうとしただろ!

 ちょっとズレてるよ!

《ごめんごめん! 失敗した。ちょい、リセットさせてくれる?》

 まあ、いいけど。

 頼むよ、ホント。

 

 Take2

 木々がいくらか開けた広場がある。

 早速“ヒト”と思われるモノを発見した。

 数は3。

 はい。はい。エルシィとダンとヴェリスな。

 で、なんと言うか、あちこち■情景が■∴バグってんだけど■:大丈夫なんだか。

 たぶん、物体が時空的に欠損∵:しているとこは¨さわらないほうが■いいと思いますね。

 最低でも、指がぶっ飛びます■∵なにそれこわい;■

 あと、風とか葉っぱの擦れる環境音が狂ってて、ファンタジー世界で鳴っちゃいけない電子音のような不協和音が垂れ流されている。脳が腐りそうよ。

 で、ヴェリスの第一声までとりあえず巻き戻されたけど。

「神ヴェリスか!」

 知らねえよ!

 とりあえず、今度は史実通りに【分析】してやるよ。

 

 第■¶オー∵・クランのヴェリス

【力:999 体力:52,149 知力:18 反応:52,149 器用:0000000000】000000

 

 マジで神ヴェリスだよ!

 こんだけのスペックがあったら、女王に怯えることも無かったろうに……。

 いや【分析】の表記がバグってるだけなんだろうけどさ。

 で、対するダンのリアクションはいかに?

「一体、いったい、何を言ってるんだ!?」

 いや、ホントにな。

 「“君臨者”憑依セット。フョードル・ズァドル!」

 しかし、何も起きなかった!

 まあ、そりゃそうでしょうよ。

 単なる中二病罹患者にしか思えないやり取りの後、やっぱりエルシィを拉致ろうと近付いて。

 はい、ドーン。

 光が晴れて。

 なんと、そこには、無傷で仁王立ちするヴェリスの姿が!

 マジで、神ヴェリスか!?

 女王でも半焼死体になった威力だぞ!?

「俺は平気だよ」

 そうのたまうヴェリス。

 エルシィの魔法に耐え抜いた自負にも聞こえる、絶妙なマッチ感がまた腹立つね!

 しかし、それからヴェリスが動く気配はない。

 ああ……これも恐らく歴史の収束だろう。

 この時点でヴェリスは死んでなきゃいけないのに、肉体が無傷で残ってしまった。

 で、いかなる物理干渉も受けないが、それ以降の自我もない静謐な存在の誕生、っと。

 で、エルシィがボクに気づくと。

鉄環絞首刑ガローテだ!」

 ど、どこがだぁ!?

 何ひとつ合ってないよ!

おっぱいのペラペラソォォォス!¡Os voy a romper a pedazos!

 これ、あれだろ。

 某生物災害的ホラーゲームの四作目で、チェーンソーもった村民がスペイン語で叫んでた台詞の、空耳ネタ。

 あのダンジョンでこんな地球ネタを耳にするとは思えないからボクが口走ったんだろうが、全然記憶に無い。

 でもまあ、状況的には間違ってないね。

 このコのおっぱいが平坦ペラペラなのは事実でありーーボクは自分の偏見を恥じるこれはペラペラなのではなくスレンダー体型なのだボクの了見が狭く矮小だった。

 貧乳と言う言葉は地球にしかない差別用語。この世には存在しない。いいね?

 アッハイ。

 ……レイとしての自我が何者かにますます侵食されているようなーー断じて気のせいですよ。

 まあ、そんな下らないことはさておき。

 そこで無表情で棒立ちになってるヴェリスがすげー気になるけど、史実通りに話を続けよう。

「めんどくさいんで前置き省略。キミを【分析】させてよ」

 で、彼女は彼女で史実通りに「まぁ!」とリアクション。

 何でもない事なのに、まともなリアクションが返ってきただけで、この安堵感。ホントなんなんだよ。

「はい。神テレシアです」

 と安心した瞬間裏切られた!

 なんか、言動がアタマの弱いコみたいになってるよ!

 ああっ、そんな事を考えていたら、眼前のエルシィ(過去)が首をろくろみたいに360度ゆるやかに回転させつつ、ブリッジをしだした。

 で、

「ノーメッセージノーメッセージノーメッセージノーメッセージノーメッセージノーメッセージノーメッセージ時系列不整合」

 こえーよ!

 挙げ句、彼女は物凄い推進力を得て、真上にぶっ飛んで行った……。

 フワー! どこいくねーん!

 こりゃ、確かに“神テレシア”を自称できる挙動だよ……。

 

 はい。

 MARK Ⅱよ。何がしたかった?

 まさか、ボクに在りし日のエルシィを見せてってゆーか、

 出会った頃に戻れたら……なんて願望に付け入った精神攻撃のつもりとか、そんなやつ?

《いや、何でそんな回りくどい事しなきゃいけないの。

 単に、最初にオークを屠った光魔法のベクトルがバグってキミんとこに向いたら、それなりにダメージ食らうよねって狙いだったのよ。

 それが、どうしてこんなことに……》

 そっちの方が回りくどいよ!

《いじるトコ間違えたかなぁ。魔法がぶっ飛ぶはずが、エルテレシア自身の座標がぶっ飛んじゃったよ》

 ……。

 ねえ、多分、決着つけたいなら普通に戦った方が早いよ。

 真面目にやろう?

《……ごめんよ》

 まあ、気持ちはわからんでもない。

 ボクも、地球時代はきれぼし脳だとか、そんな好きでも無かったんだけど。

 この世界に来てから“無秩序から生まれるビミョーな秩序”の良さってのもわかるようになったし。

 万物、いじれるようになったら試したくなる気持ちはわかるし。

 てか、場合によってはボクがやらかしてたし、このチートバグ魔法。

 

 はぁ……。

 とりあえず、このぐちゃぐちゃになった世界のソースコードを元に戻すことからしなきゃ。

 この人のこーいう、しょーもないイタズラの尻ぬぐいをさせられるの、いつもわたしなんですよ。

 わかります?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る