第12話 五種の下等種族を観察

 この世界の中心であるペンタゴン・シティにたどり着いた。

 途方もない面積、見上げる高さの城塞に囲まれた外観はまあ紋切り型テンプレそのものだったが、内部に踏み入ると、世界が変わったような感覚に襲われた。

 何と言うか、小綺麗な石造りだ。

 しかし、石材一辺倒でもない。

 緋色の金属? が、石壁や石畳を刺繍のように装飾している。

 また、石材の部分についても、素直なそれでは無かった。

 何らかの魔法的な意匠なのか、いちいち複雑な紋様が刻み込まれている。

 都会、って感じはする。

 ボクも地球にいた時は、ドイツのローテンブルクを旅行した事もあるけど、雰囲気が似ている。

 気になるヒトは各自でローテンブルクをググってくれ。

 そこに緋色の謎金属と中二病くさい紋様をぶっこめば、大体あってる。

 さすがに首都だけあって、老若男女短身長身痩身肥満体肌の色も千差万別いろんな五種族がごった返していて、

 ボクはたまらず嘔吐した。

「ちょっと、レイさん!? 汚いですよ!」

 他に言うこと、あるんじゃないかな。

 

 ここで、まずドワーフをはじめて見た。

 短身頑躯のひげ面。ステレオタイプなおっさんドワーフが露店で雑貨屋を開いていたからすぐにわかった。

 すげー精巧な、水晶のドクロをずらりと陳列してるけど、あんなの売れるんだろうか?

 それと、一番肝心な「レイさん、エリクサーさがしてるでしょう?」

 ……ウザ。

 ボクの思考に、エルシィが割って入ってきた。

「お見通しだった?」

 隠す気はない。

 何でボクが彼女に遠慮してコソコソしなきゃならないの。

「たぶん、探してもムダですよ」

「なんで」

 ここは事実上、エルダーが支配する都市だろう?

「わたしも首都にはちょくちょくきてますけど、なぜか作れる人、見たことないんです」

 へえ。

 超越知的生命体・エルダーエルフサマのハッタリにしては、お粗末なんじゃない?

 都市を掌握してるなら、種族の誰かが商売も掌握してるだろ。

 ……。

 …………。

 結論から言えば、胡散臭い露店からちょっとお高そうな店までしらみ潰しに観察しても、エリクサーは一瓶たりとも見付からなかった。

 

 ドワーフの営みは、他にも見て取れた。

 建築現場だ。

 ハンマーひとつで、生身のドワーフひとつ。

 リアカーひとつで、生身のドワーフひとつ。

 ダンプカーもトラックもショベルカーもいらず。

 そして、ボクには到底理解不可能な杭の打ち方だったり、基礎の作り方だったりをしている。

 

 そう言うドラマの収録かって言うような、ステレオタイプの鍛冶屋とか見てもドワーフの独占状態だった。

 で、どの業界に限らずワーキャットとオークは奴隷扱いなのが見て取れた。

 だいたい、ドワーフかハンターエルフにどやされながら、追いたてられながら、右往左往している。

 なお、ハンターエルフのファッションセンスはやはり、緑を基調としていた。

 普通、好きな色って一人一人違うよね? 忌々しいことに。

 でも、ハンターエルフは違った。

 正装のみならず、私服の者もかたくなに緑色を使っているあたり、種族そのものに根付いた色彩感覚のようだ。

 どいつもこいつも似たり寄ったりなカラーリングなのは、好感が持てた。気に入った。うちに押し掛けてファッ○してやってもいい。

 もちろん、似てるのは色だけで、身分や立場によって着てるものは全然違うんだけど。

 同じエルフでも、お高くまとまって傲慢極まりないエルダーよりはよほど好きになれそうだった。

 で、話はワーキャットとオークに戻すけど。

 広場に開かれたバザーみたいなとこで、少し上等な緑服を着こんだハンターエルフどもに、こいつらが売られてた。

 と言っても、買い手がつくまで結構手厚く世話はされているようだ。

 猫野郎なんかは、のんきにあくびをした挙げ句、毛繕いまでしている個体もいた。

 この広場を炎の雨で焦土に出来たなら、どんなに良いだろうか。

 まあ、その辺の戯言は置いといて。

 確かに、奴隷商人にとっての奴隷とは“商品”であるから、むしろその辺の他人よりも大事に“維持”しなきゃならない。

 地球のカーディーラーだって、展示してある車はピカピカにしておかなきゃ。

 売り物の扱いが粗雑だと、商売人としての沽券に関わる。

 それにしても、猫にしろオークにしろ、自活するだけの身体能力とプライドはあるわけで。

 この社会で文化的な生き方したきゃ、そりゃクランに引きこもって他種族を誘拐したり、ヤクザ傭兵に成り下がって森とか漁るよね、とは思った。

 同情はしないけど。

 むしろ、全部死ね。

 

 視察の仕上げは、コロッセオ見学だ。

 陳腐だけど、規模としては東京ドーム一個分。

 タイマンの戦いで考えると、出場する側としては、結構、大回りな動きができそうな印象だ。

 やっぱ、観客側に回れるのもドワーフとエルフ二種が大半のようだ。

 で、闘奴になってんのは猫とオークがほとんど。

 まあ、オークの耐久性を正確に見る機会は無かったけど、逆に闘奴をアスリートとして見るとワーキャットとオークの独壇場になるんじゃないかと思う。

 ボクとしてはコレ、逆に大丈夫か? と心配になる。

 フョードルを殺すなら、コロッセオに参加するのがまあスマートだろう。

 殺人罪にならない方法があるのなら、それに越したことはない。

 “君臨者”狩りの序盤から、追われる身になる道理もないし。

 しかし、それにしても。

 一応、耳を改造してエルダーエルフのように振る舞ってはきたけど、種族的に不利な上流階級がわざわざ闘奴になりに行くって、不自然じゃない?

「たまーに“そーいう好事家”が合法的な殺人のために参加したりするので、前例はありますよ。

 あっ。あとは、人体実験とか」

 エルシィが、太鼓判を押してくれた。

「元々闘奴をやってた人たちにとっても、あわよくばの憂さ晴らしになるようですし、Win-Winの関係ですね」

 なるほど。

 世の中はボクの想像を超えて狂ってる奴らに満ちていて、しかもそいつら同士が噛み合ってるのか。

 よくできてるね。

 で、まあ。

 コロッセオを見学しにきたもうひとつの理由。

 街中でほとんど見かけなかった、エルダーエルフが何匹か確認できたけど。

 やはりと言うか何と言うか、エルダーエルフとして生まれてきただけで、他種族とは一線を画す知力に恵まれて生まれて。

 で、命懸けの闘奴を座って俯瞰する立場にいるの。当たり前のように。

 で、議題はそれぞれ違うんだけどさ、選手の闘い方の分析だとか、人間工学的見地からの理想的な武器は何か? だとか、はたまたそれぞれの人生だとか生育環境がなんたらって精神医学的にどーたらこーたら。

 五種族の起源だとか哲学だとかボクの知性が及ばない高度な理屈をあーでもない、こーでもない、と。

 なるほどね。

 

 コイツら、エルダーエルフとしては、超頭悪い。

 

 エリクサーがどこにも売ってなかった理由もわかったよ。

 エルシィの言う通りだった。

 普通のエリクサーすら、作る脳ミソが無いんだよ、コイツらには。

 生きていて成し得ることが、小娘のDIY以下。

 いや、知力100もないボクが言えた立場じゃないよ?

 けど、下手すればボク以下の個体すら居そうな雰囲気だよコレ。

 種族のステータス格差って確かにでかいけどさ、上限値が絶対ではないわけじゃん?

 昨晩の猫二匹も、反応力とか高くまとまってたけど……でも、この世のどこかには、反応:15のワーキャットとか居てもおかしくはないよね?

 知力90から、せいぜいハンターエルフの上澄みにでかい顔出来るであろう120程度の狭間ボーダーを漂う奴らが、不労収入かなんかで毎日遊び呆けて生きてんの。

 【分析】するまでもなくわかるよ。

 コイツら、ニセモノだってね。

 先にエルシィを見てしまったのが悪かったのかね。

 何て言うか、やっぱエルダーエルフって、文明的な奴ほど見かけ倒しが多いみたいね。

 この場合、エルダーエルフの調和を乱す冒涜者はどっちだろう。

 何となくだけど、ボク的にはエルシィよりもコイツらの方がムカつくかな。

 マジモンのイカれエルダーは考えすぎた挙げ句に紀元前レベルの生活に退化したのが、ボクの後からついてくるそこのイモ娘を見ればわかるわけで。

 つまり、この首都は、そう言う奴らが支配する都市だと言うこと。

 まあ。それもボクには直接関係はないけど。

 ボクが首都に求める目的は、フョードルただ一匹のみ。

 

 さて、昨晩、ワーキャットの乱入で棚上げになっていた最後の下準備を済ませてしまおう。

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