第3話 ボクのステータス

 大体、この白一色と言う獣欲を掻き立てる世界がいけないんだと思う。

 確かにボクは、冷静さを欠いていたのだろう。

 ボクと“同じ”姿のオトコ。

 “神”と言うにはあまりにも淫猥な姿をしたソレから、ボクがこれから投げ出される世界のルールを啓示される。

 脳みそへ、情報をダイレクトにぶっこむやり方で。

 ボクの眼前に、幻のウインドウと言うか、情報が羅列された映像が出現ポップした。

 これは便利だ。

 スマホの次はこう言う仮想情報端末の時代が来てほしいと、ボクも常々思っていた。

 ハンズフリーで、場所を取らないのが良い。

 

 異世界“一菱いちりょう”では、あらゆる生命体の能力ステータスがほぼ正確に数値化されている。

 二種のエルフのうち“超越種エルダー”と呼ばれる魔法特化種族が提唱した“ハビエル法”によるものだ。

 ちなみに、ボクが今見ているウインドウもエルダー・エルフが開発したらしい。

《まず、“一菱”におけるハビエル法で算出されたキミのステータスとスキルがこれだ》

 

ステータス

【力:52(100) 体力:49(100) 知力:95(100) 反応:66(100) 器用:73(100)】

スキル

【狂気:10(10)】【我儘:10(10)】【チェーンソー:3(10)】【自動翻訳】

 

 ……。

《何か質問は?》

「ありすぎるけど。この、能力値の末尾に執拗についている(100)って何?」

《それは、キミの種族としての限界値だね。

 例えば力:52(100)ってのは、100と言う“人間族ヒューマン”の中での、キミと言う個体の評価になるね。

 現段階でのキミは力:52であって、極限まで鍛えてゴリマッチョになっても100どまりって事。

 キミは人間族なのだから》

「新たな疑問が発生しました。さっき、異世界にはエルフやドワーフのようなクソ族しか居なくて“人間ヒューマン”は存在しない、と聞いた気がするけど

《キミは例外ってこと。逆説的に“一菱”においてキミは超希少種ってことだから、その辺を弁えて行動しないないとやばいよ?》

 ますます気持ち悪い世界だと思った。

 とにかく、それならそれで、確認すべき事がある。

「他種族の能力限界値を教えて」

《承知》

 

エルフ(エルダー)

【力:50 体力:50 知力:200 反応:100 器用:130】

エルフ(ハンター)

【力:90 体力:70 知力:120 反応:200 器用:170】

ドワーフ

【力:200 体力:150 知力:50 反応:70 器用:200】

ワーキャット

【力:180 体力:80 知力:70 反応:200 器用:130】

オーク

【力:130 体力:200 知力:50 反応:100 器用:50】

 

 ……なるほど。

 “人間”のボクを基準に考えると、種族の得手不得手が大体見えてくる。

 ドワーフは人間の二倍の力だし、エルダーは現代人の二倍はモノを知っている事になる。

 前者も恐ろしいが、想像もつかないのは後者の方だ。ボクの倍以上賢いって、どんなだろう?

 ノーベル賞取ったヒトでも諸葛亮孔明でも100を上回る事がない……と考えると、文字通り異次元の思考を持っていてもおかしくない。

 と言うか。

 そう考えるとボクの知力:95ってかなりの高評価だね?

《地球でのキミの知力自体は、平均よりやや上程度じゃないかな?》

「なら、どうしてこの数値に?」

《そこで言う“知力”とは、今から行く“一菱”が基準になるから。魔法のある世界でなら、キミは天才的な立ち回りができるのだろう。

 元々、キミの居場所は地球じゃ無いって思ってたんでしょ? “ここではない何処か”に移住できて良かったんじゃない?》

 さすが神。ご名答だ。

 ボクがあんな死に方をしたのは、元をただせば地球がボクに適合していなかったせいだ。

 まあ、今となってはどうでも良いけど。

 大切なのは、過去よりも未来なのだから。

「じゃあ、次。

 ドワーフの次に力が強いのってワーキャットなの? オークじゃなくて?」

《そうだね。ここで言う“力”と言うのは、地球風に言えば瞬発力の事だから。

 陸上選手や自転車選手だって、筋肉のつき方で得意種目が違うだろう?

 オークの場合は、他種族に比べて“遅筋”が圧倒的に発達しているから、爆発力が無い代わりに持久力と頑強さに優れているね。

 “一菱”の世界に敏捷性と言うステータスが無いのはそのせいだよ。

 速いと言うのは、瞬間的な力強さに秀でていると言う事なのだから》

 つまり、ボク達が考えるところの“素早さ”と言うのは力と反応力を合わせた総合的な能力と言った所か。

 恐らく、単に脚が速いだけでは無駄だろう。その高速の世界に順応出来るほどの知覚力……“反応”が優れていなきゃ。

 したがって、ドワーフの素早さは低いであろう事が推測される。

 反応が人間の7割程度で、反面、体力ーー持久力を司る筋肉に恵まれている点で、それが自重の鈍重さに繋がっている筈だ。

「質問はこれで最後。五種族って、どうやって暮らしてるの? これじゃエルダーを頂点に、他の四種族が家畜にされているビジョンしか想像できないのだけど」

《その推察は、半分正しくて半分間違いだ。

 まず、この世界は“一菱”の名前の通り、菱形の大陸がどんとひとつあるだけ。

 そして、その外周に沿って各種族の集落がポツポツ点在している形かな。

 一応、物資の行き来くらいはあるけど、相互不干渉で独立は保たれている。

 で、大陸のど真ん中に“ペンタゴン・シティ”と言う首都がある》

「地球のアメリカ国防総省とは?」

《無関係。単純に、五種族が共存している都市だからそう呼ばれているだけ。

 一応、五種族の議会があって、表向きの五種族平等をうたってはいるけど……キミの推察通り、実情はエルダーとドワーフが優位。ハンター・エルフは知力次第で微妙な立場。ワーキャットとオークは、市民権があるけど、ほとんどが奴隷扱いだ》

「エルダーが偉そうなのは容易に想像がつくけど、ドワーフが幅をきかせているのは意外だね」

《力と器用さが、文化面でも役に立ったからだろうね。首都における現代の建築様式や様々なアイテムは、まずドワーフ製だ。

 工芸品だとかそう言うのも全て、ドワーフの独占状態。

 他種族の天才がどれだけ血反吐を吐くような努力の末に作った渾身の作品であっても“そこそこ”の腕前のドワーフに遠く及ばないから。

 後は単純に、力=武力の強さ が歴史上で猛威を振るったからかな?

 それと、魔法を付与されたアイテムなんかは、エルフとドワーフの合作でないと実現出来ないし。で、こう言うアイテムは上流階級の生活に密着しているわけで。

 地球で言う所の高級車とか、ハイスペックパソコンとか?》

 なるほど。

 本当に、生まれの差が逆立ちしても覆せない世界なのか。

 となると。

 理論上オール100を目指せるボクは、誰にも勝てない。

 けれど、誰にも負けないように立ち回る余地はある、世界で唯一のオールラウンダー選手と言う所か。

 あとは“スキル”次第だろうな。

 ボクは“神”に、次を促した。

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