間話 1
第34話 七緒の帰宅
タマちゃんから電話があった。
奥多摩の家の補修もほぼ見通しがついた小晦日の夕方だった。
さやちゃんが居ないってどう言うこと?
私の胸は不安でいっぱいになった。
元々大晦日に帰る予定だったが、急遽帰ることにした。
悠くんも心配して一緒に帰りたがったが、補修は明日には仕上がる。
それからということになった。
悠くんのお友達に車で駅まで送ってもらう。
悠くんが駅で切符の手配をしてくれた。
この時期の移動なので、立って帰るのも覚悟していたが、運良く席がとれた。
電車に乗り、悠くんに見送られながらも気は急いて、長い移動を始めた。
急ぎ足でアパートに向かう視線の先に、心配そうにたたずむタマちゃんがいた。
「タマちゃん、身体が冷えてしまうじゃない」
「もう着くって電話もろたら、落ち着かなくてね〜」
真っ暗な中、取るものもとりあえず二人で2階に向かう。
鍵を開けて部屋に入ると、こんもりしたセーターと悠くんの絵本が見えた。
まるでさやちゃんが今そこにいたかのように‥
部屋の中を見まわり、確かにさやちゃんが居ないのを確認した。
いつも感じていた気配もない。
テーブルの上にはさやちゃんが作ったらしいパンなどが置いてあった。
その前に二人で座り、私はセーターを引き寄せて胸に抱えこんだ。
「居ないだろ? 私も夕方アパート中の鍵を開けて探したんだよ」
ああ、オーナーだものね。
「さやちゃん、何処に行ったんだろう」
私は零れそうになった涙に自分で驚き、目をしばたいた。
「あの子の役割を終えたのかもしれないね〜」
「役割?」
「七緒ちゃんが立派に生きられるようにさ」
「それじゃ…もう戻って来ないのかしら?!」
「それは分からないけど、きっと次に必要とされる所に行ったんじゃないかね」
タマちゃんがそんな風に思いたかっただけと分かっている。
でも、現実を超えた存在であるなら、それも本当なのかもしれない‥
タマちゃんがテーブルのパンを取りトースターで温めだした。
私は置いてあったクッキー缶を開けてみた。
甘い匂いが漂い、そこに現れた私達四人の形のクッキーが私の胸を揺すぶった。
嗚咽がもれ、私はそれから散々泣いた。
タマちゃんはしばらく背を撫でてくれた後、パンを差し出した。
「ろくに食べてないんじゃないかい? 折角だからこれいただこう!」
さやちゃんの作ったパンはやさしくて甘い味がした‥
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