抱きしめ屋

食連星

第1話

本日より開店.

『抱きしめ屋』


この世界.

皆寂しいでしょ.

癒してあげるんだ…

な~んて.

私が寂しいだけ.


10年間.

いや,もっとか.

20年とまでは言わない.

付かず離れずの幼馴染と.

いや…

最後の方は,くっついてたのか.

まぁ,

何となく,こうなるのかなとか

思ってた.


長くなればなるほど,

ドキドキが

慣れへと変わる.

慣れは心地よく,

悩みの種となる.

種は…

すくすくと大きく成長して,

先に彼へ花開いた.


「ごめん…

好きな人が出来た.」

マジですか…

何そのベタなテンプレ.

その前にマスクをとれっ.

マスクしたまま告げるのね.

立ち話のように

別れ話を置いてった.


私が言ってあげたら良かった.

嫉妬というよりも,

ただの執着だ.

私の物が…

遠くに飛んでいっちゃう.

繋ぎ止められるものなんて,

何一つなかった.


寂しさだけ残った.

こんなもの!

残していくな!

馬鹿野郎っ!


って事で開店.

要は私が寂しいだけ.

1回100円.

時間は敢えて設けなかった.

だって,その時間までって頑張るのって.

何だか違うし.

個々人で違うでしょ.


さぁ…

手書きの看板持って,

駅前に座る.

出来たら,女性がいいな.

清潔感のある人だったら,

男性でも.

もう,ここで選り好んでる.

ふふふ.


「抱きしめ屋?」


「はい.抱きしめ屋です.」


ん~若めのサラリーマン風.

スーツ着てるから,かっちりした職業?

隣に座ってくる.

でも,今10時過ぎ.

遅めの出勤か外回り?営業?

詮索はしない.

言う事を傾聴し,反復して受けとめる.


「妻がえっちしてくれなくてさ.」


おぉヘビーなの来た.

いきなり,のっけからかい.


「そうなんですねぇ.」


「違うのよ.

誰とでも良い訳じゃないんだよ.

あなたがいいのって思ってるんだけど.

上手く伝わらないんだよね.」


「奥さん愛されてますね.」

笑顔で返すと

「そうなんだよ.」

幸せそうに笑った.

触れ合いたいのに上手くいかない人もいるんだ.


「まんま伝えたらどうですか.」


「言うのが恥ずかしいし.」


「黙っていても伝わりませんよ.

見ず知らずの人に言えたじゃないですか~.

大丈夫.

愛あって結婚されたのですから.」


「かなぁ.」


「はい.」


「抱きしめて行こうかと思ったけど,

家帰った時にするわ.」


「めちゃくちゃ抱きしめてあげてくださいね~.

いってらっしゃ~い.」

ひらひら手を振ると,

凄く目を細めて笑いながら,手を上げて行ってしまった.


何だ.

純な人じゃない~.

上手くいくといいなぁ.

いや,

必ず上手くいくわ.


さて,お次は誰来ますかね.

こんなご時世.

ハグした後,

アルコールシュッシュしておいた方がいいのでしょうね.

全然,今必要なかったけれど.

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