沈黙に積雪

新吉

第1話 沈黙に積雪

 世界が変わることは何度もある。たいてい黙ったまま変わってしまう。

 空からホコリが降ってきた、ドアを開け放して裸足のまま外へ。うっすらと地面は白くなっていて、見上げた空には青がない。


「なんだこれ」


 彼にとってはじめての雪だった。この地方でもはじめての雪。本の中で遠い世界の出来事として伝え聞いてきただけ、この地方でこの気温、はっきりとした異変だった。


 手のひらに何粒か落ちては溶ける。濡れる。


 魔法でみる水の変形。それが自然に降ってくるなんて。もしかして誰かが空で詠唱してるんだろうか。なんて。ハヤテは一人で少し笑った。

 自然の力を魔法に利用することは誰でも知っている。氷の魔法石が採れる地域の話も聞いていた。それでも、


「こんなにさむいなんてな」


 吐く息が白い。はじめてだ。綿ぼこりのような雪が途切れることなく空から降ってくる。次から次へ。しばらくその景色を眺めた。


 この現象について考えをめぐらせる。ハヤテはここで子どもたちに魔法を教えている。もう少し明るくなれば、先に大人たちがどうして雪が降るのか聞きに来るだろう。ハヤテ自身も本物か確かめる術はないが、雪すら知らない者も多いはずだ。


 ここは暑くて有名な地方で炎の魔法石がよく採れる。ハヤテはここで生まれ育ち、都会の学校に通い何年か魔法社で働いていた。学校では自然や季節、地方独特の石が生まれた理由も学ぶ。災害を防ぐために発展した魔法の歴史。


 彼は地元に戻ってきた。

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