第7話 デート(追跡)開始!

「みーちゃん、明日はデートだね!」

「うん、そうだね、気合入れて行こう!」

「……次に伊織君! 私の言った通りデートっぽい服装してくれる? ちゃんと時間通りに来てくれる? 私のところにちゃんと来てくれる?」

「うん、善処するよ。なるべくね」

「なるべくじゃなくて全力でやってほしいんだけど……ねえ伊織君、このデートちゃんとできたらさ、私たち本当の恋人になれるかな? 胸張って『付き合ってる!』って言えるような関係になるかな?」

「うーん、どうかな? 言えるようになるといいね」

「そうだね! 私も君にふさわしいような女の子になれるように努力するから! 絶対に君の邪魔とか迷惑にならない様に頑張るから! だから明日は楽しもう!」

「うん、そうだね! 楽しもう!」

 おー! っと一人部屋の中で小さくガッツポーズをした。



 ☆

 僕の住む千田市は緑が多い町だ。


 自然と人の融合が市のモットーだったような気がする、覚えてないけど。

 

 だから基本的には山だったり緑が多かったり閑静な住宅街だったりするんだけど、駅周辺だけは別。


 ここだけとんでもないペースで開発が進められているせいで今では駅周辺だけ異様に発展が進み、なんかスタバやらなんやらが立ち並ぶ街になっている。

 

 だから、友達と遊ぶ時は駅前集合というのが基本だ。

 

 ということで僕たちも駅前で待ち合わせをしている。昨日真帆ちゃんに見繕ってもらった服とお気に入りのジーパン、それに探偵御用達のトレンチ帽!

 

 黒田さんの私服や休日の過ごし方を妄想して出てくるワクワクや興奮を顔に出さないようにきりっとした顔を心掛けて、しっかり目に焼き付けるのが目標です!


 ……ところで星月さんが見えないんだけどどこ行ったんだろう?

 おかしいな、時間ぴったりだけど。星月さん時間にルーズなタイプではないけど。


 そう思って周りをキョロキョロしてもどこにもおおきな目をした小さな黒髪ショートちゃんは見つからなくて。

 あれ、本当にどこ行った……?


 待ち合わせ場所間違えたかな? っと思って連絡しようかと考えていると背中にボスッという軽い衝撃が走る。


「もう、遅いよ伊織君……来ないかと思って心配しちゃった……ばか」

 背中の衝撃と聞き覚えのある声に振り返るとトレンチ帽子にサングラス、デニムに猫のパーカー姿のラフな姿の星月さんが僕の背中に抱き着いていた……!


「ちょ、星月さんここ人多いから! 恥ずかしいから! 本当に恥ずかしいから離れて……それに時間ぴったりぐらいに来たよ?」

「……嘘つき。3分遅れてた。なんかあったかと思って、こないんじゃないかと思って心配だった」

 僕の背中に顔を埋めたまま星月さんは答える。

 本当に色々怖かったというか、心配だったというか、そんな声で。


 ……そうだよね、時間はしっかり守らないと。

「ごめん、僕が悪かった。大丈夫、ちゃんと来たよ」

「……許す! それにちょっとからかいたかっただけだし!」

 僕の背中から離れた星月さんはいつものように「にへへ」とサングラスごしに笑う。


 ……いや、なんでサングラスしてんの?


「え、探偵ってサングラスが当たり前じゃないの⋯⋯?」


「探偵事情詳しくないからわからないけど当たり前じゃないと思うよ。目立つし」


「は! 確かに!」


 やっぱ星月さんちょっと抜けてるとこあるよね。トレンチ帽被っちゃたし。


「いやはや、サングラスはない方がいいのか、じゃあ眼鏡だね、伊織君のも持ってきてるから⋯⋯それより伊織君、今日の服デート感が出ていていい感じだね! お揃いっぽいのはちょっと恥ずかしいけど……」


「やっぱり! 妹とお母さんが選んでくれたんだ!」


「そういうことはあまり言わない方がいいと思うよ……」



 

 「……みーちゃんと彼氏さんが来たよ」

 

 その言葉に前を見ると黒のサロペット?っていうんだっけ、あの美術の時に着るつなぎみたいなオーバーオールをふんわりさせたのを着た、いつもと全く雰囲気の違う黒田さんがいた。


 清楚できれいでそれでいてふわふわでもはや神々しい。ロングヘアの隙間から覗くうなじがすっごくキュートだ。多分これが外での初デートなのだろう、初々しく照れている姿も実にそそられる。やっぱり最高の天使様だ。

「……ああ、やっぱみーちゃんは可愛いな!」

 隣の星月さんもかなり興奮している。


 ていうか黒田さんの私服は見慣れてるんじゃないの? 気持ちはわかるけど。


「へへへへ……は、コホン……それで彼氏の方の見た目はどう思う、伊織君」

 

 そういわれて彼氏の方も見る。

 

 楽しそうに黒田さんと話す、パリッとした服に身を包んだ彼氏さんは長身で男の僕から見てもイケメンで……なんというか売り出し中の若手イケメン俳優、もしくはバリバリの若手社長、といったような見た目をしている。


 つまり勝ち組、僕とは人種が違う人間だ。これには勝てません、はい。


「……写真で見てたけどやっぱ実物はすごいイケメンね。」


「うん、男の僕から見てもイケメンだ……あれ、星月さんなんで僕の方そんなに見てるの?」


「え、あ、その、べっつにー何にもないですよーだ……それよりみーちゃんたちが移動するから追いかけよう! 見失ったら終わりだよ!」

 

 その言葉通り、黒田さんとその彼氏さんはどこかに移動を始める。

 

 その後ろを木陰などに隠れてひそひそと追いかけていく。完全に不審者だけど見つからないためには仕方がない。


「そうだ、このプロジェクトの名前を決めていなかったね……「雅のドキドキ初デート」なんて名前でいい? ……何その目は、言いたいことがあるならちゃんと話してよね」

 

 くそださ抜きげー風ネーミングセンスに少し引いてしまった。

 

 僕の周りは安直にしか名前を付けられない人しかいないのかしらん。そもそもこの追跡行為に名前を付けること自体がわからない。


 まあ、とりあえずプロジェクト「雅のドキドキ初デート(笑)」ここにスタート! 

 さーて、どんな可愛い黒田さんが見れるか今から楽しみだ!





「大丈夫かな……?」


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