街ぶらデート(追跡)編

第6話 お出かけと勝負服

 夜ベッドの上でふらふらしていると電話が鳴る。


「あ、伊織君学校お疲れ様。今時間大丈夫?」


「大丈夫だよ。どうかした?」


「いや、その今日は学校で恥ずかしくて全然話せなかったからいろいろお話したくて!」


「そっか。ていうか恥ずかしいなら無理して設定作らなくていいんだよ?」


「大丈夫、それは大丈夫だから! それで話なんだけど……」


 それからいろいろな話をする。


 今日の黒田さんやひいきの野球チームの話や動物園のパンダの話とか……色々。


「今年は絶対優勝するから!……あ、もうこんな時間だ」


 その言葉に時計を見ると12時を回っていた。確かにいい時間だ、僕はこれからゲームするけど。


「そうだ、伊織君最後にお願いなんだけど聞いてくれる?」


「どうかした? 大本選手のサインカードはあげないよ?」


「いや、ほしいけどそれじゃなくてね……その明後日の事なんだけどさ、なるべくデートっぽい服装で来てほしいって言うか……ほら、私たちも追跡とはいえ街中歩くんだからさ、その、バレない様にって言うか街になじめるって言うか……取りあえずお願い!」


「まあ、そのくらいなら。でも期待しないでね」


「ふふふ、じゃあ期待しないで待っとくね。おやすみ、伊織君」


「うん、おやすみ」


 そういうと電話が切れる。


 僕はそのままゲームのスイッチを入れた。


 ……しかしデートっぽい服装か。


「真帆ちゃんお願いがあります、オシャレな服を選んでください」


「いや、それくらいはいいから顔あげてよ⋯⋯妹に土下座とかお兄ちゃんにはプライドないの?」


「ない!」


「即答は妹として悲しいよ⋯⋯」


 呆れたような返事は了承の合図って誰かが言ってた。


 黒田さんストーキング作戦を前日に控えた土曜日夜。


 一応女の子と制服以外で2人で会うって言うのが初めてで、しかも「デートっぽい恰好できて!」なんて言われてるからおしゃれをしていこうと思ったんだけど、いかんせん僕含めほとんどの友人は非リア君だし、真斗には絶対からかわれるから聞くことはできん。


 香菜ちゃんとかあやのんとかは……ちょっと恥ずかしい。


 ということで一応現役JC3年生の妹の真帆ちゃんに聞こうという考えになったわけです。


「それでお兄ちゃん、どうして急にファッションなんて気を遣おうと思ったの? おしゃれなら真斗さんに聞けばいいのに、最近見てないけど……あ、もしかして彼女でもできた?」


 モフモフウサギパジャマの真帆ちゃんがアイスを食べながらちょっと答え辛い質問をしてくる。お揃いのパジャマを持ってるけど最近着たらめちゃくちゃ怒られた。


「いやー、その、あはは⋯⋯」


 取りあえず笑ってごまかす

 僕の笑顔に真帆ちゃんのアイスを食べる手が止まった。


「え、まじ「伊織! あんた彼女できたの! 本当、どんな子、どんな子! 可愛い? 可愛い? いつも電話してる子?」

「いや、ちょっと母さん寄り過ぎ⋯⋯また紹介するからちょっと今は⋯⋯」


 恋愛初めて30年、色恋沙汰には地獄耳な母親が「彼女」という言葉を聞いてどこからともかく飛んできた。キラキラお目目が38歳には見えない。


「えー、いいじゃん、ケチ! 写真くらい見せてよー! ねぇ、お父さん、伊織に彼女が出来たって!」


「本当か!」


 母親の呼びかけに1階にいた父親が急いで階段を登る音が聞こえてくる。夫婦揃って恋愛脳、そちらの話題ではキャラが変わる。


「伊織、伊織! 彼女どんな子なんだ? 出会いは? 年齢は? 趣味は? 仕事は?」


「新婚さんいらっしゃいじゃないんだら⋯⋯とりあえず父さんは息を整えてよ」


『息子の一大事にそんなことしていられるか!』


 一大事じゃないよ、ハモるなよ。


「ど、動物と野球好きの同級生の子だよ、いつも電話してる子。顔は……まあ可愛いかな。真斗のお母さんとかには言わんといてよ、恥ずかしいから」


 真帆ちゃんついて来れてないじゃん、ドン引きじゃん。


 それに絶対こうなるからあまり話したくなかったんだ。


 写真も持ってるけど守秘義務もあるから答えたくない……でも両親のえげつなすぎる視線にくっして簡単な情報だけ伝えた。


「言わない、言わない! それよりあかりちゃんだっけ? 趣味が一緒だと仲良くなりやすいよね!」


「お父さんとお母さんもプリキュア好きという共通点から付き合ったからな! やっぱり趣味は大切だと思うぞ! それで、明日はどこに行くんだ?」


「明日は駅の方へ行ってプラプラするかな……ついてこないでよね!」


「いかない、行かない! デート頑張りなよ、伊織!」

「お父さんとお母さんも初デートは駅の近くの映画館に行ったな! あの時見た映画は確か……」


「映画サクッとプリキュア! とんかつ魔人とコレステロールよ! 二人でおしゃれしていったじゃない!」


「そうだった、そうだった! 伊織、初デートには映画がおすすめだぞ! 話すネタにも困らないし、また行こう! って話になりやすい!」


「伊織、どんなプラン考えてるか知らないけどあんまり攻めすぎたものはダメよ! 服装も同じでお母さんのおすすめは「うるさーーーーーーい!!!!!!」


 両親のハイペースマシンガン思い出トークは置いてけぼりにされた真帆ちゃんの叫びにさえぎられた。普段はおとなしい子なんですけどね。


「お父さんとお母さんのなれそめはいいの、今はお兄ちゃんの話をしているの! それにお父さんとお母さんはオタク趣味だし時代遅れなところあるからここは現役女子中学生の私に任せて! めんどくさいから早く部屋から出て行って!」


 そういって怒りのままにぐいぐい両親を外に押し出す。


「えー!!!」っと文句を言いながらも、素直に外に出ていった。


 さっきから僕全然話せてないんだけど……


 両親を追い出した真帆ちゃんがサラッと髪を掻き上げる。妙に絵になるやつだ。


「さて……お兄ちゃん、私には考えがあります。まずお兄ちゃんにカッコイイ系の服装は似合いません」


「酷いこと言うね」


「事実だからね。だからカッコイイ路線というよりなじみやすいような服装を目指します。ということでお兄ちゃんに必要な服は……」


 そういってごそごそと僕のクローゼットをあさりだす。一度僕の評価を友達とかに聞いてみたい。


「えーっと、確かあったような……あ、これだこれだ!」


 そういって真帆ちゃんが取り出したのは袖がチャックの白パーカー。胸元にはかわいい猫ちゃんがついている。


「これなら結構かわいい服だし、猫ちゃんもついてるから動物好きの彼女さんの受けもいいはず! これにいつものジーンズを合わせたら最低限デートっぽくなると思うよ! 暑いのは……我慢しろ!」


「確かにこの服銀髪のリア充がきてそうだ……真帆ちゃんありがとう!」


「お礼は大丈夫、お兄ちゃんがダサい服でフラれたら私も悲しいしね。それに私も……少し安心してるんだよ」


「安心?」


「うん、安心……だってお兄ちゃんこれまで絶対に手の届かないような高嶺の花子さんばっかり好きになっていたでしょ。そういうことがあったからお兄ちゃんに普通に彼女が出来て安心してる」


 そういって僕の方に近づき、ばっと指を向ける。


「だから、最初のデートでフラれたりしたら承知しないよ! 期待してるよ、お兄ちゃん!」


 そういってニコッと笑う。


 その笑顔の前では、これが偽装なんて死んでも言えなかった。




「ねえ、お父さん、明日伊織のデートついていく?」


「いや、さすがに行かないよ、休日出勤だし……でもお母さん、明日あの辺で買い物する予定なかった?」


「……ナイスアイディア!」

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