アデライトの最期
「お祖母様。しっかりなさって。」
「あぁ。マルゲリット…来てくれたのね。まぁみんなも良くきてくれたわね。何だか良い香りがするみたいだけど…。」
アデライトの視線は、定まっていない。マルゲリットはアデライトの手をしっかりと握る。
「お祖母様が大好きだった王宮のフリュイ・コンフィを沢山持って来たの。リナがハーブティーを調合してくれたから、それと一緒にみんなで食べましょう。」
「あぁ。リナのお茶は美味しかった。最近は飲めていなかったから。」
「そうでしょ?後でみんなで楽しみましょう。聞こえる?お祖母様の好きな弦楽のカルテットも呼んでいるのよ。隣の部屋で演奏しているから、楽しみにしていてね。」
アデライトは、マルゲリットに頷いて見せた。
「さぁ、皆様。王太后様がお疲れになってしまいます。隣の部屋へ移動をお願い致します。」
医師に促され、隣の部屋へ移動する。
「王太后様は良くない状態でございます。皆様、お心づもりをなさって下さい。」
医師は、それだけ言って部屋を出て行った。
「王太后様は先ほどまで、朦朧となさって、会話の出来るような状態ではありませんでした。やはり、皆様が来て頂けるとこんなにも反応が違うのですね。お久しぶりの会話でございました。」
泣いているマルゲリットの背中を、里桜は優しく撫でた。
アデライトは、ベッドから青い空を見ていた。
「こんなに弱ってしまって。」
「あなた、ここまで迎えに来てくれたの?大変だったでしょう?」
「いいや。君を迎えに来るのは僕の勤めだとずっと思っていたから。」
「あの子は?見ましたか?もう本当に、あなたの生き写しのようでしょ?私、あの子を見ていると胸が締め付けられる思いなの。あの子に大きな重荷を背負わせてしまったこと、深く後悔をしているのだけど…でもね…少しだけ好きな人の子を産めて良かったと…思ってしまう自分もいるの。この生涯に愛し愛されることを知ることが出来ただけで、幸せと思ってしまうのよ。」
アデライトは手を差し出す。
「あなたにも申し訳ないと思っているの。巻き込んでしまって。」
「僕だって子どもだった訳じゃない。自分で決めて君を受け入れたのだから。謝る必要はないよ。ただ、僕だけが先に楽になる道を選んでしまったことは申し訳なかったと思う。」
「いいの。あなたが、誰かを娶って、子を成して、暮らしている姿を私は見ていられなかったはずだもの。勝手でしょう?私は、あなたが得るべき幸せを奪ったのに、可愛い孫に恵まれて、余生をこうして幸せに生きた。」
アデライトの瞳からは一筋の涙が零れた。
「ただ、後悔をしていると言えば、やはりあの子のことね。本当はね、抱きしめたかったの。だけれど、抱きしめたらつい、‘あなたは愛し愛された結果生まれてきたのだと’言ってしまいそうだった。この言葉は絶対に言ってはならない言葉だったから。あっ、でも随分昔に王妃にこの事を話したことがあったわ。でも、それ以上広がらなかったって事は、あの子は誰にも言わなかったのね。やっぱり、真っ直ぐで正直な子ね。子だなんて…もう立派な年だけど。あとは、贅沢言えば…結婚を控えているマルゲリットの花嫁姿は見たかったわ。本当に花のような娘になって…気立てもね…私ではなく王妃に似て…それと…」
アデライトは途切れ途切れに話す。
「…それと…彼女ね。ウラリーにはもっと幸せそうな顔でいて欲しかったわ。一度、出かけたついでに見に…行ったのよ。…でもね、彼女想像していたみたいには笑って…いなかった。もの悲しい顔で庭を手入れしていたの。」
苦しいような、苦いような顔をした。
「あらっ……そろそろ迎えの時間かしらね。みんなにお別れを言わなくちゃね。」
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