シャルル・エイクロン

「シャルル殿下、陛下がお呼びです。」


 ちちの侍従フォールが硬い表情で執務室へ来た。とうとうバレたかと、腹をくくる。


「話の内容は聞いたか?」

「私の口からは申し上げられません。玉座の間へお越し下さい。」


 バレた上に、結果は最悪なものになったらしい。今一番思うのは彼女の身の安全だった。



 彼女とは王宮の庭で会った。小さな体で木の苗木を一生懸命運んでいた。最初は木が動いたのかと思うほどに苗木と彼女は不釣り合いだった。今でも思い出せば笑える。

 私にとって家とは窮屈な場所だった。兄のシドと弟のラウルだけが心を許せる存在だった。いつ足を掬われるか、王妃ははちちの年の離れた弟であるロベール尊者を常に警戒していた。叔父の魔力の強さは王に匹敵する強さで、ちちとは親子ほどに年が離れている。だから、叔父が仕掛ければ王位は俺ではなく叔父に渡るかも知れないからだ。弱みを見せぬ様に、不注意な行動はしない様に。常に王妃ははに口うるさく言われていた。

 そんな息の詰まる暮らしの中で、彼女は自由で明るくて何より裏表のない人間だった。彼女に惹かれるのに時間はかからなかった。彼女にしても私との関係はかなり決意が必要だっただろうと思う。

 人目を盗んで会って、子供が出来たと分かったのは出会ってから一年が経った頃だった。学院の時の伝手を使い、彼女を匿った。彼女の存在を知られるわけにはいかなかったから、会うこともなくなった。ただ、友人伝いに生活費や贈り物手紙は欠かさなかった。彼女からの返事はなかったが、友人から聞く我が子の成長が何より嬉しかった。


 玉座の間へ入ると、ちち王妃ははがいた。

「今日、庭師の馘首かくしゅを命じた。理由はわかるな?その娘にも今後一切王都に近づくなと命じた。」

 温度を感じないちちの声は、耳を通り抜ける。

「庭師もその娘と子も命だけは助けたのです。有り難く思いなさい。」

 王妃ははの声も同様だ。

「あなたは、自分の立場というものが分かっていないのね。今までは好きな様にさせていたけれど、好きにさせた結果がこれですか。一週間後にアデライト・フロベールとの婚約式を行います。反論は一切受け付けません。良いですね。この部屋から出たら、アデライトに手紙の一つでも書いて、贈り物をしなさい。婚約者らしくね。」

 王妃はそれだけ言うと部屋を出て行った。そして王も何も言わず部屋を出た。


 アデライトとの婚約式は滞りなく終り、結婚はその翌年にした。パレードをし、その後父の下命により国内の視察旅行へとアデライトと行った。

 国境付近のアデライトの父フロベール侯爵の領地に行った時だった。焦がれていた女がいた。赤い髪に黄金色の瞳。腕には小さな男の子を抱いていた。息子の顔を見たのはそれが初めてだった。

 彼女の身の安全は全てアデライトの手の内にあることをその時に知った。

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