ロベール王子 十三歳

「ロベール様は神殿の尊者様になってしまわれるの?」

「そうですよ。」


 現王の末息子のロベールは、異腹の姉の嫁ぎ先であるアングランド侯爵家に来ていた。ロベールはこの前十三を迎え、昨日洗礼を受けた。それによって赤色の魔力を授けられた。


「では、もうここにはいらっしゃらないの?」


 侯爵家の娘ジャンヌは寂しそうな顔をする。叔父と姪の関係ながら年の差は二つ。


「いいえ。時にはこちらに来てマルゲリット様やあなたの様子を伺いに来ますよ。尊者になるとは言っても、学院にも通わなければいけないし、尊者の仕事は暫くありませんから。ただあなたもそろそろ洗礼の準備をする年ですから、あまり甘えてばかりではいけませんよ。」


 マルゲリットに育てられたロベールにとってジャンヌは可愛い妹の様な存在だった。


「洗礼が終われば、私は従兄弟のシド様と婚約するのだと聞きました。シド様からはお手紙を貰っています。」

「そう。優しい許嫁で良かったですね。」

「でも少し文章が幼いわ。」


 ロベールは優しく笑う。


「そう言えば、ロベール様はなぜ縁談を断るのかと母上が悩んでいらしたの。なぜなの?」


 可愛い姪の屈託ない質問に苦笑いをする。


「私には神の道が全てなのですよ。神に祈りを捧げ、この国に安寧をもたらしたいのです。」

「母上に教えてもらって私も祈っていますのよ。」

「そうですか。それはとても尊い行いですね。」

「ねぇ、ロベール様。ロベール様の幸せとは何?」

「それもあなたの母上が心配なさっていたのですか?」

「いいえ。これは私の父上が。毎日のように私の幸せを願うのです。だから、父上のために私は幸せにならなくてはいけないのです。」


 ロベールは、ため息を吐く。私は望まれぬ子だった。母は王の寵妃になるため私を身籠ったが、無駄に強い魔力だったために、逆に疎まれた。

 私自身も鮮やかな赤色の魔力を持ってしまった。しかし、もう王太子は兄上に決まっている。私が生まれる前から。これから私は王妃や兄の側近たちに常に監視されるだろう。だから、神の道を行くしかないのだ。

 婚姻一つも足を掬われる事になりかねない、私は結婚などしない。


「ジャンヌ。ごめんね。それは私にも分からない。でも、幸せを祈ってくれる人が沢山いることが幸せなことなのかもしれないね。」


 ロベールに言えるのはこれだけだった。

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