53話 襲撃

『こちらの処理は終わりました。記憶奪取メモリースティールで奪った記憶によると全員がある1人の貴族に金で雇われていたそうです』


『となるとその貴族はメテンソマ家を恨んでいると言う事でいいのね?』


『そのような認識で大丈夫です。どうしますか?今すぐ私が滅ぼすことも可能ですが』


 思念だけでも伝わってくるアンゲロスの怒り。これはきっと拷問をする中で何かあったと予想する事が出来る。

 恐らくだが記憶奪取メモリースティールを使うことなど今までは無かったのでそれを使わされたことに怒っているのだろう。記憶奪取メモリースティールが成功する確率は50%なのであまり効率は良くない。

 だからこそ完璧主義のアンゲロスが記憶奪取メモリースティールを使ってしまったことに怒っていると考える事が出来るのだ。


『今はまだいいわ。それよりも馬鹿をけしかけてきた貴族とやらは誰かしら?』


『それは記憶奪取メモリースティールでも読み取る事が出来なかったためまだ情報を集めている途中です....』


 成程。つまりはその馬鹿どもは貴族ではなく、第三者を通して貴族からの依頼を受けたと言う事になるのだろうか?それならば第三者から記憶奪取メモリースティールをしない限り情報が手に入ることは無いので本当に厄介なのである....

 尤もアンゲロスがその気になればその第三者すらも探し出す事が出来そうで本当に怖い....


『そっか、そこまでわかっているなら上出来だよ。それと、私の方にも数人きているから早めに戻ってきてね?』


『畏まりました。いらぬ心配でしょうがお気を付けください』


 そうして私はアンゲロスと思念で会話しても怪しまれないように使っていた思考加速を解除する。

 思考速度が元に戻った私だが次の瞬間には現世と幽世を構えて警戒態勢に入る。

 一応こちらから手を出せば私の方に来ている数人の事をすぐに倒すことはできる。出来るのだがそんなのはつまらないし、私から手を出してしまうと何かと厄介なことになってしまう可能性が高いので私から手を出すことは決してない。


「何人かがこちらを狙っているようなので気を付けてください」


 ただし私から手を出すことは無いが警告は一応しておく。

 ここで私が変な事をして殺されてしまうくらいならば先に情報くらい教えてもらっててもいいというものだろう。


万物遮断領域マテリアルエリア


 最善の手を尽くす。

 私でも外側から破るのには少し時間がかかってしまう隔離領域の『万物遮断領域マテリアルエリア』をお父様とお母様、お姉様の周りに薄く纏わせる。これにより、お父様達には外部からの干渉がほとんどできなくなる。

 勿論私なら万物遮断領域マテリアルエリアを突破することはできるのだがそれは超級以上の魔法を使うことになるので正直言うとめんどくさい。


「これであなた達には外部からの干渉が一切効かなくなりましたので安心してください」


 大事な家族の為ならば私は自重などしない。

 私の正体がバレるのは確かに問題なのだが、力を見られることは特に問題にはならない。むしろこの状況で自重などしているのだったら人間失格だと思うし、私は二度と自分の事を許せなくなってしまうような気がするので自重などしている暇がないというのが現状である。


「それでは私は....ッ!」


 瞬間、火花が交差する。

 私の刀と相手の剣が競り合っているのだ。

 微妙に力を合わせて相手の剣を折らないように私と相手の力が拮抗するように仕向ける。そしてそのまま相手の表情を見ると、どこか勝ちを確信している表情になっていた。

 まぁ、そんな表情になってしまうのは仕方がない事だろう。なにせ私は中学生くらいの身長しかないので正体を知っているもの以外からは小さく見えるというのが現状だ。

 そして今回はそれが偶々役になった。相手は私の事を見た目だけで判断してこのまま押し切ることが可能と判断を下しているのだろう。


「餓鬼が...死にやがれ!」


 その証拠に一気に力を強めて私の事を切り裂こうとしてきたため私の事を弱いと判断しているのだろう。

 しかしこいつと私には天と地ほどの差があるのでここでありもしない幻に閉じ込めるというのもまた一興である。


「それじゃあ死んでね甘美なる絶望世界ディスペアー・ワールド


 そう考えた瞬間には私は既に行動を起こしている。

 ありもしない私の事を倒せるという夢が見れる世界に閉じ込める。それはいつしか自分の都合のいい事しか見ることのない甘美な絶望の世界へと変化していく魔法となっている。

 これによって1人は死ぬよりも遥かに苦しい行為に陥る。

 我ながら恐ろしいことをしてしまったと思ったのだが後悔などは微塵もしていない。というかこんな時に後悔などする必要はないのだ。私達に攻めてきた相手が悪いので完全なる自業自得になるので同情する余地が一ミリもないのだ。


「.....そこッ!」


 一度現世を鞘に戻して、1人が隠れている場所に向けて斬撃をとばす。

 これは完全に初見殺しの技であり回避されてしまうとどうしようもなくなってしまうという技になるので正直のところこの作戦が成功するかどうかは半信半疑だったのだ。

 斬撃が通った場所にあった草木は全くを持って無くなってしまい自然として機能がしなくなってしまっている。

 こういうことがあるのであまり現世を使いたくなかったんだよなぁ....と、今更なこと考えながらも再び私は警戒態勢に入るのだった.....

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