48話 勇者のお話

「あ、ハクオウいたいた。何の授業見学しているの?」


「歴史の授業ですね。俺の憧れ存在である人物の出来事についての授業があるのでそれをどうしても、見たかったんですよね」


 ハクオウが何をしていたのか判明。

 どうやらハクオウは昔の人物で、ハクオウが憧れている人物。そのものの授業があったようで、それを視たかったとのことだ。


「今回からは昔の人物や出来事についてのまとめ....つまりは歴史の総復習に入るぞ」


 ハクオウが尊敬している人物。それがいったい誰なのか私も気になってきた。

 きっとハクオウが尊敬している人物となれば剣士なのだろうか?それこそハクオウと同じ剣聖の称号を持っていた人物などが予想する事が出来る。


「先ずは魔勇者カエデ・ナナセについてだ」


「は?」


 カエデ・ナナセ....つまりは七瀬ななせかえで。要するに私の事である。というか何故私が歴史の授業に載っているのだろうか?

 いや、確かに勇者だったので載っていること自体に問題は無いのだが私はクソ女神によって先生らしき人物が言った通り『魔勇者』とされている。私の功績は全てクソ女神に奪われたとのことなので教科書に載る理由が本当にわからない。


《え?七瀬楓ってリース様の事ですよね?》


《う、うん....私の事であってるよ....》


 困惑するアンゲロスの声が思念通話というスキルで私の頭の中に響くのだが私だって困惑している。というかアンゲロス以上に困惑しているのは私である。

 名前もそうだが教科書に載っているのは忘れる事が出来ない、銀髪の私なのでこれが私で間違いない。何故遥か昔の私の写真があるのか...これに関してはクソ女神が関与しているとしか思えないので今気にしても何かなると言う事は無いだろう。


「やはり凄いですね....」


 語られているのは私の悪行の数々なのだがそれでも魔族にとってはあれなのだろうか?一応ハクオウも私達にしか聞こえないくらい小さい声で感想を言っているのでそこは人間と魔族で色々と違うのだろう。

 まぁ、私としてはどうだろうと困惑物なのだが....


「とまぁ、そんな魔勇者カエデだがその暴走を見かねた創造の女神アーシア様が止められたんだ!」


 クソ女神アーシア。その名前を聞いただけで心の底から怒りがこみ上がってくる。

 そのくらい私はクソ女神の事が嫌いであるし、そもそもの話クソ女神に創造の力なんてないので全て噓である。そういう背景もあるので私はクソ女神が創造の女神を名乗っていることを許せない。

 そんなことを言えばクソ女神に狙われるかもしれないのだが今の私にはクソ女神を滅ぼせる力...というかオーバーキルする事が出来る力を持っているので問題ない。寧ろ私としてはウェルカムな状況である。


「先生。魔勇者の悪行しか話していませんけど、魔勇者ってどんな人だったんですか?」


 1人の生徒から出てきた当然の疑問。教科書には私の悪行...と言う名のクソ女神がやったことしか書かれておらず、私がどういう人物だったのか?そういう情報は一切載っていないかった。

 そんな偏った情報ばかりでいいのか?そう思ってしまったのだがクソ女神のせいで悪行しか伝わっていないので、これしか乗せる事が出来ないというのが正しい表現なのだろうか?

 私もこの学園の生徒になる予定なのでそこは真面目にはっきりさせておきたい問題点である。自分の冤罪を授業で聞くのは本当に嫌なのだ....

 いうなれば拷問に近い行為。しかし私がその魔勇者であることを言うわけにはいかないので授業を止める事が出来ない。というか私が魔勇者と明かしたとしても特に何かできるというわけではないので明かさないという選択肢が正解である。


《うぅぅぅぅ.....拷問に近い行為なんですけど....》


《リース様....頑張って耐えてください!》


 アンゲロスに対して思念を送ると、そんな言葉が返ってきた。アンゲロスとしても私が今どういう状況にいるのかと言う事を一応理解してくれている為、そんな言葉が返ってきたのだろう。

 取り合えず今はこの地獄のような状況をどう切り抜けるのか。それがとてもとても重要な事である。他人にはどうでもいいことに見えるのかもしれないは私としては本当に重要な事なので早めに決めておきたいことである。

 そんなことを考えながら先生の言葉が全く聞こえない程集中するためにも。どんどんと思考の沼に私は落ちていくのだった....

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