第29話 ラストバレット
(私がザラギアを測り違えたからだ……)
超火力の攻撃を受け、リューリは殆ど死に体だ。
その原因は自分が放った安易な攻撃だと、自分を責めつつアシェッタが駆け寄ると、僅かだが、彼の胸が上下しているのが見て取れた。
「アシェッタ……無事か……?」
「うん、でもリューリが……」
アシェッタが火傷だらけの手を取る。
リューリは軽く握り返したが、なんだか安心して力が抜けた。
だが、戦いはまだ終わっていない。
「チッ、ゴキブリ並にしぶといなテメェ等!」
片翼の天使の相貌がこちらを睨む。
だが、動かない。動けない。
先のカウンタースペルで大量の魔力を消費し、一時的な脱力状態にあるのだ。
だが、動けないのはリューリも同じ。
(くっ、クソ痛ぇ……これじゃアシェッタも相当キツいだろ……けど、巻き込んだのは俺だ。泣き言は言わねぇし、お前だけ逃げろなんて言えねぇ……だから、)
リューリは深く息を吸い、淡々と呟いた。
「アシェッタ、"まだ"やれるか……?」
申し訳無さそうな顔だ。
だが、リューリは全然懲りていない。ぶっ飛ばされ、太陽に焼かれて尚、"まだ"だとほざいている。
アシェッタへの心配は無論ある。だが、その上でリューリは"まだ"付き合ってくれるのかと問うているのだ。
リューリが自分を頼っている。
その事実がアシェッタにとっては何よりも嬉しく、胸の奥から無限の力を湧き上がらせた。
「勿論! 何でも言ってよ!」
「なら、もう一度、命の炎を分け合おう。」
リューリがアシェッタを太陽から庇ったのは、アシェッタに死んでほしくなかったから。
だが、命を捨てるつもりは毛頭無い。
リューリは、攻撃を受け止めた後の、己の生存を見ていた。
それが、"これ"だ。
「DDG最後のクスリ——————まぁ、いつものドーピング薬だよ。」
リューリはドラゴン・ドラッグ・ガントレット最後の突起をくるくると回し、中から太くて短い注射器を取り出す。
「これを、二人で分け合うんだ。」
「なるほどね。」
アシェッタの心が、まだ勝機が消えていない事実に奮い立つ。
そして、注射器のピストンを抜き、コップの様にして薬を口に含んだ。
二人は互いの手をギュッと結ぶと、身体を寄せ、唇を重ねた。
そして、口移しで薬を分け合う。
「この状況でイチャついてんじゃねぇぞボケがッッッ!!!」
怒髪天を突いたザラギアが、堪らずレーザーを放った。
絡み合った舌と舌は、名残惜しげに離れる事となる。
だが、薬は分け合えた。
「続きはアイツを倒してからだねっ!」
いつもの調子が戻ったアシェッタはウインクし、リューリは照れ臭そうに頬を掻いた。
「まぁ、他人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえって事で……」
リューリがザラギアにパンチを放つ。
それはザラギアの耳元を掠めた。
数コンマ遅れて突風。
それが、今のリューリのパワーを物語っている。
片翼を失ったザラギアを、十分倒しえるパワーだ!
「おっ、お前らが勝手におっ始めたんだろうがぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
ザラギアは、ごもっともな正論とレーザーを放った。
リューリは身体を逸らしてそれを躱すと、バックステップで距離を取り、入れ替わる様にアシェッタが突撃する。
いつの間に生成したのか、アシェッタの手には氷の槍があった。
「クソっ!」
ザラギアは後退を兼ねたムーンサルトでアシェッタの槍を破壊。
だが、一呼吸の間もなくリューリの追撃。
後手後手に回ってしまう。
思えば、今回の強襲、ザラギアはずっと後手に回らされていた事を思い出す。
最初の空中戦、アマミヤの弱点攻撃、そして今——————
(ずっとこんなだ、何をやろうと後手に追い込まれる……クソクソクソッ!)
ザラギアはギリギリのステップでリューリのラッシュを躱し、また後退。
だが、ここでザラギアの脳に電流が走った。
(絶対に後手に回されるなら……後の先を取れば……? そうだ、カウンタースペルの時だって奴らの攻撃への対応。上手く対応すれば!)
そこまで思考が回った所で、リューリが強い踏み込みと共に迫って来た。
(丁度良い、ここだ。)
ザラギアは込み上がってくる笑みを隠しつつ、強く踏み込まれたリューリの軸足を、上から踏ん付けた。
これでリューリは勢いの分つんのめり、大きな隙が生まれるという寸法だ。
ザラギアの予定通り、リューリは倒れかかってきた。
無防備なそこへレーザーを打ち込もうとしたその時、
「っらあ!」
頭突きである。
リューリの全体重と勢いは、ザラギアに踏まれた足を始点に頭へと掛かった。
それを、ザラギアの脳天にドン!
「!?!?!?!?!?!?」
意識の外からの攻撃。
ザラギアは混乱し、全ての思考に一瞬の空白が出来た。
それを見逃すリューリではない。
「これで、終わり、だぁッッッ!」
崩れた姿勢を勢いで制御し、頭突きを食らって下がった敵の頭にアッパーを叩き込む。
ザラギアの頭は激しい上下運動でシェイクされた。
「え……?」
間が抜けた声を発し、平衡感覚を失ったザラギアが、血と羽毛が撒き散らされた地面に倒れた。
流れる血が、白い羽毛に新たな斑点を刻む。
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