第13話 リューリの下克上上等無双



 夏休み前、最後の学園最強トーナメントである紫陽花戦。

 アマミヤとリューリが出会った一週間後の火曜日、それが紫陽花戦の日だ。

 そして、学園のバトルフィード、コロッセオにて紫陽花戦・一回戦第一試合が始まった。


 「今回は本当に負けられないんでな、悪いが速攻で終わらせてもらう」

 「ほざけ、Fランクがっ!」


 アマミヤが細工したのかは知らないが、どう勝敗が動いてもリューリは3回連続でSランクと戦うマッチングになっていた。ふざけるなよ。


 「疾風のエレメントよ————————」


 今、リューリの目の前に居る相手はどうやら風使いの様だ。

 風属性は広範囲の嵐や、一点突破のかまいたちを起こしたりと対応力がある。

 厄介な相手だ、だからこそ、速攻、瞬殺する。

 リューリはコロッセオの大地を強く蹴り、猪の様なスピードで敵に肉薄する。


 「氷のエレメントよ、あるがままに研ぎ澄ませ」


 リューリは初級氷魔法でペン程の長さの氷柱を生成した。

 氷柱といっても、その側面は鋭利だ。


 「なっ、もうここまで近づいて———」

 「お前はこれで十分だ。」


 相手の上級風魔法が完成する刹那、リューリは鮮やかに相手の頸動脈を切断した。

 飛び散る血の中、指揮棒の様に構えた氷柱が軌跡を描く。


 「バトルフィールドでの傷で死ぬ可能性は少ない。早く降参するんだな。」

 「クソォ! 死にたくねぇ、降参だ!」


 リューリ、一回戦突破!




 二回戦、勿論相手はSランク。

 今回も瞬殺と行きたいが、この大男は身体能力を強化する魔法を使う。

 防御力を強化されれば、ジリ貧は免れないだろう。


 「まっ、魔法使いらしくあの手この手で葬ってやるよ」

 「まぐれの一勝で粋がるなよ、クズが。」


 リューリより頭一つ大きな背丈と筋肉量。

 通常であれば威圧感で気圧されてしまうだろう。

 が、今のリューリに恐怖などある訳がなかった。


 「生命のエレメントよ……」


 ただでさえ筋肉的に差がありそうな身体能力を強化されては大変だ。

 一見隙の無い出立ちだが、強化前の今が最大のチャンスだ。


 「とは言え、隙が無いのは事実なんだよな……」


 仕方ない、こじ開けるか。


 「炎のエレメントよ、種火と成りて猿たる我等に叡智を与え賜う……」


 下級炎魔法、それをリューリが更にダウングレードさせたオリジナル魔法だ。

 蝋燭に灯る火よりも更に僅かな炎が、大男に迫る。

 大男は動かない。

 この程度の炎、避けるまでもないからだ。


 「やはりクズか……」


 じゅっ。

 一瞬、大男の構えに隙が生まれた。

 それは熱いモノに触ってしまった時に起こる、条件反射。

 大男は咄嗟にガードの腕を上げてしまった。


 「基本的に炎は避けるもの、どうやら手を誤った様だな」


 「だがっ、お前如きのパワーでは俺の筋肉は貫けないッ! そして、炎を避けなかった判断は正解ッ! 身体強化が間に合ったッ!」


 間に合った?


 「そいつはどうかな?」


 リューリが指を鳴らすと、大男の足元から火柱が上がった。


 「バカなっ、詠唱も無しに中級レベルの炎魔法を……」


 この世界は現状、無詠唱魔術は下級魔法ですら確立し切れていない。

 それを、Fランクがいきなり……

 無論、そんな高等技術をリューリは持ち合わせてはいない。


 「最初に打った下級炎魔法に、何か仕込んだ……?」


 観客の内、何人かは気付いた様だ。

 そう、リューリは最初に放った小さな炎に油を仕込んでいた。

 自然現状!

 種火は油と反応し、時間差で火柱を起こしたのだ!

 かくして対戦相手は丸焦げとなった。

 リューリ、二回戦突破!




 三回戦の相手はSランクの氷使い、白吹雪のヒューリだ。

 ここに来て異名持ちとマッチング。

 しかも、


 「まぁ、瞬殺はされない様に頑張るよ」

 「チッ、一二回戦見てやがったか……」


 リューリは論理のエンターとの戦いを思い出していた。

 奴ほどじゃ無かろうが、ある程度手の内が読まれると思っていいだろう。

 一二回戦での俺のバトルのイメージがヒューリの中にあるのだ。

 ヒューリは俺が下級魔法しか使わなかったのを見て、俺の攻撃を避ける必要が無いと判断。

 発動に十数秒の時間を要する上級魔法の詠唱を始めた。


 「大いなる氷のエレメントよ、凍て付き、大地に爪立て……」


 "避けるまでもない"か—————————

 その油断、存分に付け込ませてもらおう。


 「火炎のエレメントよ……」


 「何っ、中級魔法の詠唱だと!?」


 今まで黙っていたが、俺は中級魔法が使えない訳ではない。"使わない"のだ。

 初級魔法すら十数発が限界な俺の魔力量では、中級魔法の使用は消費が大き過ぎる。

 外した場合、次の手が打てなくなるのだ。

 だが、確実に当てられるならば———


 「下級魔法だと踏んで動かなかったのが仇になったなぁ、ファイヤブラストォ!」


 「ぐわあああああああああああ!!!」


 紅蓮の炎がヒューリを掴んだ。

 詠唱途中の無防備な身体に中級魔法を喰らえば、多少魔法耐性のあるSランクとて致命傷は免れない。

 リューリ、三回戦突破!

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